2
「やれ。」
人影が呟くと、影の後ろから黒い物体がレイナ達に向かって飛びかかってきた。
「来たわね!」
レイナは杖を両手に持ち、飛びかかってきた物体を打ち返す。
打ち返された物体は地面に叩きつけられる。しかし、レイナは違和感を覚え、自分の持っていた杖を見た。
「これは・・・まずいのが釣れちゃったかな。」
レイナの持つ杖は物体に当たった場所から先が消えていた。
「あれは、何なんですか・・・。」
「番犬、かしら。」
物体が音もなく立ち上がる。物体の頭に当たる部分に消えた杖の先が刺さっていた。
「やれ。」
再び命令を出す人影。その声に呼応して、物体が襲い掛かる。
物体の次の攻撃は、レイナ達の持っていたダミーの道具袋をかすめ、大きな穴を開けた。
「まずいですね。」
ロムとレイナは離れた位置に立つ。
「ロム、ちょっとの間自分の身を守って。」
「判りました。」
レイナは先の無くなった杖に力を込め、物体に投げつけた。物体はその杖をジャンプして避けるが・・・。
「避けれると思わない事ね。」
先の無くなった杖と物体に刺さった杖が引き寄せあい、先の無くなった杖が物体に突き刺さる。その時の衝撃で物体は受け身を取れず地面に落ちた。
「これで終わり!」
レイナが地面に手をつく。
次の瞬間、地面に落ちた物体は地面にそのまま埋もれていった。
「やれ。」
人影が呟くが、物体は出てこない。
「やれ。」
「無理よ。完全に動けないようにしたから。」
人影がまた同じ言葉を放つが、何も起こらない。
「戻れ。」
「え?」
さっきとは違う言葉を放つ。すると、人影の後ろに再び物体が姿を現す。
その光景を見て、レイナはゴクリとつばを飲み込んだ。
「ロム、こんなのを量産されたら、少なくとも平穏な日常は終わるわよ。」
「ですね。」
レイナは、腰につけている道具袋から指輪を取り出した。
「確かに、一暴れ出来そうって思ってたけど、本気に近い一暴れとは思わなかったわ。」
右手で指輪を握りしめてレイナが短く呪文を唱える。レイナの持っていた指輪が淡い光を放ちながらレイナの手の中に消えた。
その光が消えると同時に、レイナの手に一振りの剣が現れていた。
「さて、さっさと片付けるわよ。」
剣を人影に向けるレイナ。それでも人影は動じない。
「やれ。」
人影が再び呟く。その言葉に物体は再びレイナ達を襲う。しかし、それより先に構えていたレイナが動く。
「消えなさい。」
レイナが力を込めて薙ぎ払う。すると、剣が当たっていないにも関わらず、物体と人影はずるりと二つに分かれて地面に落ちる。
「殺したんですか?」
「これで素直に死んでくれれば楽なんだけどね。」
二人は崩れ落ちた人影と物体を見る。普通なら生きてはいないのだが。
「戻れ。」
「やっぱりね。」
人影がその言葉を放つと、二つに分かれていた物体は元の姿に戻り再び人影のそばに現れる。
「やれ。」
物体が飛びかかってくる。しかし、次のターゲットはロムだった。
「ロム!」
「判ってます!」
右手に木の棒を持ち、迎撃態勢にあるロム。その手にしている木の棒を物体の頭にめり込ませ、その瞬間に魔法を放つ。
「バーストダウン!」
物体は一瞬頭が膨らみ、次の瞬間には頭があった場所は何もなくなっていた。胴体だけになった物体が地面に落ちる。
「ロムも相変わらずね。でも・・・。」
「戻れ。」
その一言で、全てが最初に戻る。ただ一つ戻らないのが、二つになった人影だけだ。
「あっちを何とかするしかないようですね。」
「封印しかないわね。」
レイナは剣先を人影に向けて呪文を唱える。
「ゲージ!」
剣先から、赤い光が放射状に放たれる。その光が人影とその傍にいる物体を貫いた。
そして、赤い光が徐々に一つに集約される。人影と物体が身動きの取れない状態でその中心に飲み込まれていく。
「やれ。」
人影はそう呟くが、物体は光に飲み込まれて動けない。やがて、人影も言葉を発せなくなる。
「ロック!」
レイナが言い放つと、赤い光が消え、赤く透明の石がドサッと地面に落ちた。
「これで、大丈夫でしょ。」
動きを止めた人影と物体が、石の中に見える。もう動くことはないようだ。
「レイナが普通に魔法を使うなんて、久しぶりに見ました。」
「それだけ、危ない奴だったって事。」
レイナが苦笑いしながら、額にうっすらと浮かんだ汗を腕で拭う。
「これが、模倣体なんでしょうか。」
石をのぞき込むロム。よっぽど珍しい光景だったようだ。
「恐らくね。人影と物体で別個体だと思うから、これで二匹かな。」
「あと一匹ですか。」
「そうね。お頭を捕まえて、今回の件の話を聞き出しましょうか。」
封印した模倣体を眺めながら、レイナは少しため息をついた。
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