3
数分ほど歩いた先で、木の隙間から、地面に足を飲み込まれた人達が見えた。
「一般人・・・では無いみたいですね。」
二人が木の陰から様子をうかがう。
どうやら、地面に埋まってしまったらしい人達がもがいている。
「行ってみましょうか。」
二人は、埋まってしまった人達の元へ向かい、声をかける。
「どうされました?」
白々しく問いかけるレイナ。
「と、突然地面が波打ち始めて・・・気が付いたら足が地面に!」
辺りには革鎧を着た四人が、膝ぐらいまで埋まっている。全員パニック状態だ。
「た、助けて!!」
「まずは、落ち着いてください。一体こんなところで何を?」
救援要請を軽く流し、聞きたいことを問い掛けるレイナ。
「こ、この辺りに住処があるんですが・・・。」
「住処って、こんなモンスターが沢山いる場所に?」
「鉱山の跡地なら、安全なんです。」
「安全?」
「はい、番犬がいますから。」
少し落ち着いて来たのか、埋もれた四人のうち数人は足元の土を掘り始めている。
「ところで、皆さん・・・お仕事は?」
「・・・木こりです。」
全員が力強く頷く。それを見たレイナは。
「ロム、軽いのお願い。」
「はいはい。」
すでに準備が完了しているロムは、手早く全員にチャームをかけた。
「はい、もう一度、皆さんのお仕事は?」
レイナは手慣れたように質問をする。
「盗賊です・・・。」
「集まっていたのはなぜ?」
「見張りの交代です。」
「さっき言ってた番犬って?」
「黒きモノの模倣体です。」
「お頭は今どこにいるの?」
「アジトで、寝ています。」
「そのアジトは、鉱山跡の洞窟でいいのね。」
「はい。」
「ありがと。」
レイナはロムに目配せする。それを受けてロムはチャームを解除する。
「それじゃあね。」
そう言って野盗達に背を向けるレイナ。それを見て慌てる野盗達。
「え?!た、助けて!」
「そのくらいなら、1日地面を掘れば抜け出せるわ。今なら地面も少し柔らかいから、頑張って。」
そう言って、レイナ達は大声で叫ぶ野盗の集団を置いて鉱山跡の洞窟へ向かった。
「あー、あんな言い訳されるなんて思わなかったわ。」
岩山まで戻って来たレイナは、さっきの出来事を思い出して思わず吹き出してしまう。
「私、全員が木こりって言ったとき、笑いそうになりました。」
ロムも一緒に笑っている。
「全員、木こりの道具持ってないのにね。」
そう言って、二人はひとしきり笑いあった。そして、真面目な声のトーンでロムが切り出す。
「それにしても、やっぱり変ですよね。」
「全員が一度に同じ罠にかかるなんて、やっぱり本職じゃないわね。」
もし本職が居れば、あの状態でも何かしらの方法で逃げていたはずだ。現に、周囲にあった木に急いでしがみつくなり登るなりすれば埋もれずにすんでいた。
「ですね。」
ロムは今までの事を思い出しながら考えを口にする。
「野盗というより、軍の統制っぽいですよね。」
「そうね・・・。」
レイナの不安がいよいよ現実味を帯びる。
「もし、国が関与してたら、どうするんです?」
「そうなると、もう私の手には負えないわ。だから先に私の依頼の範囲を聞いておいたのよ。」
少し暗い顔でレイナは答える。
「となると、私がもう一度依頼をすればいいんですね。」
おどけた感じでロムが答えるが、レイナの表情は変わらない。
「正直な話、もしその依頼をするのなら、私には荷が重すぎるわ。」
どんなに有名でもレイナは個人だ。国を相手にする事は難しい。その事はロムも知っている。
「困りました。街周辺の盗賊退治がまさかこんな事になるなんて。」
「私もよ。とりあえず今回の依頼はちゃんとこなすけど、次の依頼はよく考えて出した方がいいわね。」
レイナの答えに、ロムは少し悲しそうな顔をする。
「まあ、私からも心当たりに声をかけておくわ。」
「心当たりって?」
「国を相手にするんでしょ?なら、同じ土俵で戦ってくれる仲間を用意しなきゃね。」
指を折りながらレイナはロムに答える。
「それでは・・・。」
レイナを見つめるロムの目が涙で歪んでいる。
「ロムを見捨てたりはしないわ。でも、依頼料は高くつくわよ。」
「やっぱり、レイナは頼りになります。」
レイナの手を強く握るロム。
「褒めても依頼料は割引しないわよ。」
レイナはそう言ってロムに微笑んだ。
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