4

数十分歩いただろうか、不意にロムが声を上げる。

「・・・んっ。」

「ロム、どうかした?」

ロムの顔が少し赤い。そして、息も少し荒い。

「ちょっと・・・無理かも。」

レイナの服の裾を引っ張るロム。

「ねえ、レイナ・・・。」

「どうしたの?ロム。」

ロムの様子がおかしいことに気付いたレイナ。

「チャーム、解いていいですか?」

「まだアジトに着いてないじゃない、もう少し我慢できない?」

「レイナ、私のチャームって結構つらいの知ってるでしょ。」

荒い息のまま、レイナに懇願するロム。

「まぁ、話ぐらいは知ってるけど、それほど?」

「ええ、今もずっとですよ。チャーム維持は私でも辛いんです。」

もはや涙目なロムに、レイナは確認する。

「解除しても大丈夫?案内は出来そう?」

「正気に戻るだけですから、逆らう気が相手になければ。」

レイナは少し考えた後、ロムに答える。

「判ったわ、ちょっと手荒になるけど最初に言ってるから大丈夫よね。」

レイナは最初の言葉を思い出した。

「野盗二人の手を縛るから、その後に解いちゃって。」

「そうさせてもらいますね。」

レイナは二人の手を後ろに縛り、縛った紐をレイナが持つ。

「じゃあ、チャーム解除しますね。」

ロムはチャームを解除する。野盗の二人が膝をついた。その後、野盗は不思議そうに周囲を見渡す。

「目が覚めたかしら?あなた達のアジトに案内してもらうわよ。」

「なんでそんな事・・・?!」

両腕の自由が利かないことに気付いたのか、暴れるそぶりを見せる野盗。

それを見てレイナが言い放つ。

「最初に言ったでしょ、怪我させたくないって。おとなしく教えてくれないかな。」

レイナの頼みも、野盗は無視を決める。

「二人とも、案内してくれますね?」

野盗の目の前に立ち、ベールを脱いで自分の姿を見せるロム。

その姿を見て野盗の二人は顔を伏せる。

「あれ~?どうしたのかな~?この子と何かあったかな~?。」

わざとらしく声を上げるレイナ。大方の察しはついている。

「道案内、お願いできますね?」

野盗は静かに頷いて、立ち上がった。

「結構、チャームの時の記憶って残ってるのね。」

「レイナ、恥ずかしいんですから、それ以上は。」

「判ってるわ。ありがと、ロム。」

野盗の案内で、レイナ達は再び森の奥へと足を進めた。

それから数十分歩いただろうか、四人は奇妙な光景の広がる場所に着く。

「なるほど、木を利用してそのまま屋根や壁を作ってるのね。」

木と木の間に板を這わせて屋根を作っている。屋根の下にも板を這わせ、壁として布を屋根から垂らしている。

これならば、万が一上から外敵が来ても気付かれにくいだろう。

「さて、お頭はどこかしら?」

「お頭はここにはいねぇよ。」

野盗はレイナ達にしてやったりといった感じで言い放つ。

「え?ここはアジトじゃないの?」

「あぁ、確かにアジトだぜ。数ある中の一つだ。」

言葉の裏を取られたレイナ達は、あっけにとられる。

「騙したの?」

「騙した?何言ってるんだ。俺達はちゃんとアジトに案内したんだ、約束は守ったろう。」

確かに、野盗は全ての約束を守っている。が、レイナ達は腑に落ちていない。

「さぁ、さっさとこれを外しな。」

両手を縛っている縄を揺らして催促する。

「・・・ロム。」

レイナの言葉から怒りが漏れている。それを察したロムは、再び野盗の前に立った。

「仕方ないですね。」

ロムは、野盗の顔を掴み、再びチャームを試みる。

「ま、また・・・。」

野盗二人は再び膝から崩れ落ちる。

「今度は、少し強力にかけておきました・・・。まずは場所を聞き出してから動きましょう。」

強力という言葉通り、野盗は焦点の合ってない目でロムを見つめる。

ロムの方は、明らかに顔が赤くなっていて、額に汗が浮かんでいる。

「ロム、少し休んでて。私が聞き出すから。」

「お願いします・・・。」

ロムは木にもたれかかったまま座り込み、息を整える。

「さて、お頭の場所はどこ?」

「鉱山跡です。」

「鉱山跡ね、この地図のどの辺り?」

レイナは地図を広げる。その地図に印をする野盗。

「その山の麓ね。あっ、ついでに今いる場所も印をつけておいて。」

その言葉に従う野盗。

「そこまでの道に、罠は無い?」

「はい、ありません。」

「鉱山跡にも罠は無い?」

「はい、襲われる事はありませんから。」

「まぁ、これだけ森の奥で、しかも鉱山跡ってモンスターの住処になってそうな場所、誰も行かないわよね。」

普通に考えれば、身を隠さなければならないものにとって、これほど都合のいい隠れ家はない。

「あと、聞いておかなきゃいけない情報は・・・。」

指を折りながら考えるレイナ。

「そうそう、あなた達のお頭の事よ。まず、お頭は何者なの?黒きモノの模倣体なんて、普通の人は手に入らないわ。」

随分と大雑把に聞くレイナ。

「お頭は、過去に騎士団に在籍していたと言っていました。」

「騎士団!?どこの?」

騎士団という言葉に少し驚くレイナ。

「どこかまでは判りません。」

騎士団等の軍隊は、どこの国でも持っている。だが、この件は国が関与している線が強くなったという証明である。

「お頭の名前は?」

「聞いたことがありません。全員、お頭と呼んでいます。」

「名前は不要って事ね。じゃあ、これが最後。黒きモノの模倣体はいつ来たの?」

「3か月前です。」

「ロムの依頼と、黒きモノの模倣体が現れた時が大体同じね。」

レイナは、これ以上はロムの体がもたないと考え、質問を切り上げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る