5
「ロム、大丈夫?」
座り込んでいるロムに声をかけるレイナ。
「え・・・えぇ。」
相変わらず息が荒い。
「場所・・・、判ったんですか?」
荒い息を落ちつけながらロムが尋ねる。
「えぇ、やっぱり鉱山跡だって。ここなんだけど、ロム、この場所知ってる?」
レイナは頷いて地図を広げる。
「ここですか。向かっている岩山の麓ですね。確かに、鉱山がありました。安全のため、今は森から離れた場所の鉱山を利用しています。」
「安全のため?」
「急に強いモンスターが姿を見せ始めたので、作業員は皆さん撤収したのです。」
「どれくらい前に?」
「作業員の撤収が完了したのが、5か月ぐらい前になります。」
レイナの中で、嫌な点と線がつながっていく。
「ロム、聞くことは聞いたから、チャームの解除をお願い。その後でいいから、私の話、聞いてもらえる?」
「・・・深刻な話ですね?」
無言で頷くレイナ。気軽に引き受けた依頼が、面倒な事に発展しそうになっているのを感じて、大きくため息をつく。
「判りました。」
ロムは頷いて、野盗にかけたチャームを解いた。
二人の後ろで、バサッと何かが倒れる音がする。振り向いた二人の目に倒れこんだ野盗二人の姿が見える。
「強めにかけた反動ですね、目覚めるにはちょっとかかるでしょう。」
ロムは息を整えるために深呼吸をする。その様子を見たレイナはほっと胸をなでおろす。
「レイナ、話と言うのは?」
大分落ち着いた様子のロムがレイナを促した。
「ねえ、改めて聞いておくけど、今回の私の仕事は野盗の討伐でよかったのよね?」
「え?えぇ。もちろんですよ。」
レイナの突然の質問に、ロムは不思議そうに答えた。
「それを聞いて安心したわ。ここまで予想通りだと、私の力だけではどうしようもないわ。」
「予想って、国が関与しているっていう?」
ロムがレイナに問いかける。その問いかけに、レイナは首を縦に振る。
「ええ、野盗の話を聞く限りね。」
ロムの顔が曇る。
「一体・・・何を聞いたんです?」
ロムは重い口を開いて、レイナに尋ねる。
「野盗のお頭が、元騎士団って話よ。」
「騎士団・・・。」
その単語に、ロムは息を呑む。さらにレイナは言葉を続ける。
「それに黒きモノの模倣体なんて、普通には手に入らない。後は、一連の日付ね。」
「日付?」
「鉱山を放棄したのが5か月前、野盗が黒きモノの模倣体を使って暴れ出したのが3か月前。」
「・・・レイナが疑う理由、判る気がします。」
同じ疑念を持ったロムが、レイナに同意する。
「確かに、街の周囲にはこのあたり一帯を支配下に置きたいという国がたくさんあります。」
ロムは空を見つめて話す。
「街は支配を望まないのに、人間って争いが好きなのですね。」
「向こうにも、好戦的な奴がたくさんいたでしょ。同じよ。」
レイナは笑って続ける。
「その為の自警団で、そこのリーダーやってるんでしょ。」
「フフッ・・・そうですよ。」
ロムは笑顔になる。
「まぁ、何もかも野盗のお頭を捕まえて見ればわかるわ。」
「そうですね。」
レイナは倒れた野盗の様子を見るために野盗に近づく。
まだ倒れているが、目は開いている。すでに意識は戻っているようだ。
「お頭の居場所は判ったわ。二人とも、今後は他人に迷惑をかけないって約束してくれるなら、ここで解放してあげる。」
レイナの問いかけに野盗二人はゆっくりと起き上がり、座ったまま顔を見合わせる。
「何言ってるんだ、俺達は盗賊稼業だぜ。」
「そうね、職業として認められてるから、仕方ないわね。」
レイナは後ろを向いて立ち去ろうとする。
「おい!これを外せ!」
「お仲間が帰ってきたら、お願いしたら?」
振り向かないまま手を振るレイナ。その姿に焦り始める野盗二人。
「おい!待てって!ここはやばいモンスターが徘徊してるんだぜ!」
「そう。」
レイナはそっけなく答える。
「お前ら!危害を加えないんじゃなかったのか!!」
「『私達は』危害を加えないわ。危害よりも気持ちよかったんじゃない?」
「グググ・・・」
反論できずに口ごもる野盗、どうやら観念したようだ。
「命があるだけ儲けものと思いなさい。」
そう言って、レイナとロムはアジトを後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます