3

しばらく森を進む二人。

「あら、ここは。」

少し先に進んでいるロムが不意に声を上げる。後ろからレイナが追い付いてロムと同じ景色を見る。

「開けてるわね。」

数本の倒木があり、今まではほぼ木が邪魔して見えない先まで見通せる場所だ。

地面には、不自然に石を積んだ後もある。

「休憩場所、と言ったところですかね。」

「そうね。」

周囲を確認する二人。特に気になるものは無い。林に入ってきてからずっと付いてくる視線を除いて。

「さて、そろそろいいかしら。」

隣にいるロムに、小さな声で話すレイナ。

「ええ。」

二人は広場の中央に立ち、後ろを振り向く。

「そこに隠れてる人、こっちは気付いてるから出てきたらどう?」

レイナはずっとついて来た視線の主に話しかける。

「なんだ、気付いてたのか。なら話は早いな。」

木の陰から二人組の男が現れる。ハムを襲った野党だろうか。

「さて、怪我したくなかったら荷物を全部置いていきな。」

野盗は前置きを全て省略して要求を述べる。

「困りましたね、この荷物は大切な物なんですよ。」

「困るのはそっちだ、こっちじゃねぇ。」

野党は腰に携えていたダガーを抜いて見せる。

「怪我したくねぇよな。」

毅然と対応するレイナと怖がる振りをするロム。二人は野盗の周りを確認する。

「黒きモノは・・・いないみたいね。」

「ですね。」

「じゃあ、とりあえず。」

野盗をじっと見据えたレイナ。

「私達、怪我させたくないの。ちょっと教えてくれないかな。」

レイナの言葉に、野盗が戸惑う。

「な?!怪我はてめぇらが負うんだよ!」

野盗が言い返すが、レイナは冷めた態度で続ける。

「実力差、判らないかな?」

「ごちゃごちゃうるせぇ!」

野盗の一人がレイナに駆け寄りダガーを振り下ろす!

しかし、そのダガーは空気を切っただけだった。

レイナの姿を見失った野盗。周りを見渡そうとしたその時、首に違和感を感じた。

「怪我、したくないよね?」

レイナの右手は襲い掛かってきた野盗の首を後ろから掴んでいた。

後ろで構えていた野盗もロムに腕を掴まれている。

「もう一度聞くわ、ちょっと教えてくれないかな?」

「わ、判った。教える、教えるから放してくれ!」

首を掴まれた野盗は、両手を上げてダガーを地面に落とす。

「武器は預かっとくわね。」

地面に落ちたダガーを拾い上げるレイナ。

ロムも野盗から武器を取り上げる。

「さっきも言ったけど、素直に質問に答えてくれたら何もしないわ。」

野盗の首から手を離すレイナ。

「あ、あぁ。」

自由になった野盗は地面にへたり込んだ。

「じゃあ、まずはあなた達は何者か教えてもらいましょうか。」

レイナは最初の質問をする。

「見りゃわかるだろ、盗賊だよ。この森を根城にしてる。」

ぶっきらぼうに答える野盗。


「仲間はたくさんいるの?」

「仲間?知らねぇな。」


「黒きモノ、知ってる?」

「黒きモノ?あぁ、一時は其処ら中に居たな。それがどうした?」


「ちょっと前に、馬車に乗った商人を襲わなかった?」

「知らねぇな。」


「今までの言葉に嘘はない?」

「嘘なんてねぇよ。」


次々に質問をぶつけるレイナ。野盗はその全てに答えてはいる。

が、どうも信憑性に欠ける。

レイナはロムを手招きで呼び、意見を求める。

「ロム、どうかな?」

「8割嘘ですね。」

ロムは野盗の言葉を嘘と断言する。

「何を根拠に!」

その言葉に野盗は激昂する。が、二人は気にしていない。

「ロム、お願い。」

「わかりました。」

頷いたロムはシスターローブのベールを脱ぐ。

そこには、長くとがった耳とヤギのような小さな角の生えたロムの姿があった。

「え?!ちょ・・・まて!」

うろたえる野盗を気にもせず、ロムは野盗に近づく。

「あなた達は、私には逆らえません。正直に話しなさい。」

ロムは野盗の顔を両手で掴んだ。そしてロムは自分の瞳の中に野盗の姿を映す。

「あ・・・。」

ぐったり首を落とす野盗。もう一人の方にも同じ事をするロム。

「では、聞きますよ。」

「はい・・・。」

さっきまでの声のトーンとは明らかに違う、浮かされた声の野盗が答える。

「あなた達は何者ですか?」

「俺たちはこの森を根城にしている盗賊です。」


「仲間はたくさんいるの?」

「はい、50人はいます。」


「黒きモノ、知ってる?」

「はい、今もよく見ます。」


「ちょっと前に馬車に乗った商人を襲わなかった?」

「いえ、俺たちは襲っていませんが、仲間が襲ったと聞いています。」


「今までの言葉に嘘はない?」

「嘘はありません。」


全部、さっきと同じ質問だが、答えがまるで違う。

「レイナ、他にも聞いておくことは?」

ロムはレイナに尋ねる。レイナは頷き、野盗に問いかける。

「黒きモノ、よく見るって言ってたわね。理由を教えて。」

「黒きモノの模倣体を使っているので、よく見ます。」

野盗の発言に眉を顰める二人。

「模倣体?」

レイナが言葉を繰り返して尋ねる。

「お頭が使えと言って持ってきたのです。」

「今、その模倣体はどこ?」

「アジトに居ます。」

「・・・アジト?」

ロムが首をかしげる。その間に、レイナがさらに質問を投げかける。

「その模倣体は、何匹居るの?」

「3匹居ます。」

「3匹・・・。」

驚くべき話が野盗の口から語られる。

レイナはロムに追方に向き直る。

「本当に黒きモノなら、何とかしないとダメね。」

「そうですね。」

ロムが頷く。思いは同じようだ。

「私たちをアジトに連れて行きなさい。」

「はい。」

野盗二人はゆっくりと立ち上がる。そして、アジトに向かって歩き始めた。

「アジトは、ここから近いの?」

「少し歩きます。」

野盗の二人を先頭に、ロムとレイナはその後ろをついていった。

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