第3話「もしもし私、メリーさん作戦だ!」中編
翌日、朝早くから多々野さんに起こされた私は、Telephone姉妹さんの自宅へと向かった。どうやら仕事へ向かう姉妹さんの付き添いらしい。
朝の時間といえど、事件に巻き込まれないという確証もないので、念のための護衛ということらしい。
そんな中、私たちは目的地へと到着した。
「あ、おっはよ~!多々ちゃんにたまちゃん。」
「やぁやぁごきげんよう、お嬢さん方。」
「おはようございます!」
「悪いわね、二人ともこんな朝から。」
玄関前にはすでに姉妹の二人がいた。GirlさんはLadyさんの腕をがっしりと離さないといわんばかりに組んでおり、Ladyさんはそんな妹を見て苦笑いをしていた。
「じゃあ多々ちゃん、任せたからね!あ、ねこちゃんはお姉ちゃんの反対側にいてくれるかな?」
「え、あ、はい!」
Ladyさんの反対側にきたものの、私はGirlさんやLadyさんみたいに背丈がある訳ではないので腕に手を伸ばそうとすると、身長的に厳しいものがある。とりあえずいるだけでいいのかなと思っていると、
「あ、そっか。結構人が多いところを通るから、お姉ちゃんの手を握ってるといいよ。」
「え、とじゃあ。」
私は言われるままにLadyさんの手を取った。するとLadyさんは私の顔を伺うように覗き込んで、
「あら、積極的なのね。ねこちゃんは。」
と笑い、なんだかドギマギしてしまった。そんな私をみてくすくす笑うかのように肩を震わせたTelephone姉妹さんに対して多々野さんが、あまり若い子をいじめちゃいけないよと注意する。
そんなこんなで、Ladyさんの護衛のお仕事が始まった。
といっても、これが大変だった。通勤時間なのもあり、人が多いのだ。こ、これが都会!押しつぶされそうだ。そんな中、私はLadyさんの手を取ったままはぐれないように必死だった。Ladyさんもはぐれてはいけないと思ったのか私を掴みながら歩いた。
が、いつの間にかその手がぱっと離れてしまい、思わず私は声をあげた。
「わっ、」
背の低い私にとっては人混みのなかはもはやジャングルだ。なんとか合流しようとしてもなかなか前に進めない。誰かの足につまずき、あ、倒れる。そう思った瞬間、
「おっと、」
と、私の腕を掴んでくれたおかげで転ばずにすんだ。
「れ、Ladyさん!」
「ちょっと一回それましょう。すぐ近くに公園があるから頑張って。」
そのままLadyさんに手を引かれながら、なんとか人間ジャングルから脱出できた私は、Ladyさんに連れられるまま、公園にたどりついた。
「はぁ、はー、」
「あら、大丈夫?」
Ladyさんは私の背中を優しくさすってくれてなんとか息が整った。
「だ、大丈夫です!ありがとうございます。」
「ふふ、いいのよ。でもごめんなさいね。もとはといえば、巻き込んじゃったようなものだし。」
とLadyさんが申し訳なさそうに言うので私は慌てて否定した。
「そんな!結局わたしのせいで多々野さんとGirlさんともはぐれちゃったし…。」
「大丈夫。連絡したらすぐここに来るわよ。」
下手に動くと危ないからということで、私はLadyさんと一緒に公園で多々野さんたちが来るのを待つことにした。
Ladyさんは私の隣でおそらくGirlさんに電話をかけている。なぜなら彼女の電話口から、Girlさんの声が漏れ出ていたので…。リンと音と主に受話器を置いたLadyさんがすぐくるってと、私に報告してくれた。
「よかったです…。」
ほっとしながら私は近くにあったベンチに腰かけた。Ladyさんも同じように私の隣に座ってくれたので、なんだか自然と緊張感が和らいだような気がした。
やっぱりこんなにもいい人が事件に巻き込まれるって世の末だと思う。
「(多々野さんたちが来るまで何も起きないといいな…。)」
先ほどから事件に巻き込まれるのではないかとそわそわしている私を見てLadyさんは、そっと微笑んで私の頭を撫でた。
「えっ、」
Ladyさんの行動に私は思わずぎくりと体を震わせてしまった。そんな私をみてLadyさんはくすくす笑って、
「ごめんなさいね。ただなんというか本当に猫ちゃんみたいで可愛らしいなって思っちゃって。」
「ねこっ!?」
「ふふふ。」
そういいながらLadyさんは私をぎゅっと抱きしめてくれた。なんだか少し恥ずかしいけども、その温もりが心地よくて、お姉ちゃんという人がいたらきっと彼女みたいな人なんだろうかと思ってしまった。
きっとLadyさんは不安がっている私を和ませようとしたくれたのだろう。
「れ、Ladyさん!何かあったら私が守りますからね!安心してください。」
「あら心強いわね。」
そういうと、Ladyさんはまた頭を撫でてくれた。そんな会話を交わしているとふと、何かにじっと見られれているような感触が体中に伝った。
ぞわりとするような、じっと見られるような何かが、私の体を走る。なんだろうと思い、私は恐る恐るLadyさんの後ろをみた。
そこには、見知らぬ男性がいた。スーツを着た男性はじっと私をみつめて何かぶつぶつと呟いている。しかしおかしいのはそれだけではない。ぶつぶつと呟く男性の口から黒い靄のようなものがあふれ出て、それが彼の体に纏わりついているのだ。
「…ねこちゃん?」
固まる私にLadyさんがおかしいと思ったのか、彼女も振り返る。いつの間にか後ろに立っていた男性に驚いたのか、一瞬体を強張らせたが、すぐにあら?と声を出した。
「あなたは、」
「………で、」
「え?」
「なんでなんでなんで、」
「ひっ、」
そうこうしている内になんだか様子がおかしくなった男性がずかずかとこちらに近づいてきていた。
思わず身構える私に対して、Ladyさんは男性から隠すように私を背中に隠した。男性はぶつぶつと何かを呟きながら私たちの目の前にきた。
Ladyさんは男性に声をかけようとした瞬間だった。その声を遮るかのように男性の体から黒い靄がぶわっとあふれ出たのだ。
「なんで!!!」
叫び声とともに男性がLadyさんを目掛けて飛び掛かってくる。咄嗟に、体が動いた私はLadyさんの体を掴んでそのまま倒れ込んだ。Ladyさんはとっさに受身を取ってくれたため、ケガはなくほっとしたのもつかの間。
私は男性のほうをみた。ゆっくりと私たちのほうを見つめた男性の目は虚ろげた。
「どうして、僕に優しくしてくれたのに。僕を好きだから優しくしてくれたんじゃないの。僕のことを愛してくれるのならなんでそいつなんかに優しくするの。ずるいずるいだってあなたは僕のものでしょう。」
「ひっ、」
私はLadyさんを守るように抱きしめた。男性が話す度にあふれ出てくる靄がどんどん大きくなって人の顔のようなものが映った。とうとう恐怖で幻覚が見えるようになってしまったのかと目を疑う私の耳にふと別の叫び声が聞こえた。
「もしもし警察ですか?!いま公園で女性が襲われています!」
多々野さんとGirlさんだった。多々野さんがGirlさんの受話器を取って叫んでいる姿をみた男性はぎゃっと声をあげてそそくさを逃げ出してしまった。
「お姉ちゃん!」
GirlさんがLadyさんに抱き着く衝撃がこちらに伝わり、どっと私の体の力が抜けた。多々野さんが背中をゆっくりとさすってくれてなんとか落ち着きを取り戻した。
「よくがんばったぞ、珠くん。」
「あ、いや私は…。」
「ねこちゃん!」
今度はGirlさんの抱擁が私へと向けられた。ありがとう、お姉ちゃんを守ってくれて怖かったよねと話す彼女になんだか悪い気がして私は思わず違いますと言葉が出た。
「わ、わたしは守れませんでした!Ladyさんを守ることができたのは多々野さんとGirlさんのおかげです!」
「そんなことない!ねこちゃんのお陰だよ!」
「Girlの言う通りよ。ありがとうねこちゃん。」
Ladyさんにも抱きしめられて、私はただただ今起きたことは現実だったんだと実感してしまった。
子×12 叶望 @kanon52514
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