第3話「もしもし私、メリーさん作戦だ!」前編
「俺は変な格好をしている三人組がいるっつう通報があったからパトロールしていた訳であって。おめぇが考えてるような馬鹿げた事をしていた訳じゃねぇんだよ。分かったか箱野郎。」
「はっはっは!相変わらず手厳しいな君は。」
スーツに付いた埃を払いながら笑う多々野さんに呆れながらも止まれ標識の方はで、と聞き返しました。
「ストーカーがなんだって。」
「お姉ちゃんが被害に遭っているの。私が多々ちゃんに相談して調査してもらってたの。」
「警察には連絡したのか。」
「する訳ないでしょう?」
「はぁ?」
「はぁとは何よはぁとは!」
「まぁまぁ二人共落ち着い…」
「多々ちゃんは黙ってて!」
「すっこんでろ箱野郎!」
再び凄まれたお二人に多々野さんはお手上げと言った様子で間に入るのをやめてしまいました。そうして再びお二人の口論が始まり…ひえぇ…。
「いやはや。あの2人は相変わらず馬が合わないようだ。」
「と、止めなくていいんですか…。」
しかし多々野さんは肩を竦め、呑気に感染モードになっている。い、いい加減な人だ。
「人ではなくて、異形頭だけどね。」
「…また口に出てました?」
「その癖は直した方がいいかもしれないね。…しかし、半分冗談だったといえ、止まれ君がストーカーではないとすると、」
「冗談だったんですか?!」
や、やっぱりいい加減だこの異形頭さん。
「というか、なんで多々野さんは止まれさんを疑ったんですか。半分冗談でも。」
「まず、彼はLady君に好意を抱いている。」
「好意…。」
「しかし素直になれず仲はそこまでといった具合だがね。その他に、我々がLady君の跡をつけていた所に現れた。」
「パトロールって言ってましたけど…。」
「だから冗談だと云ったろ。」
この異形頭さんはたったそれだけの理由で止まれさんを犯人扱いしていたのだろうか…。ますます、この方に住む所を探してもらうのが気が引けてきてしまった。
「ある意味、色々と賭けてみたんだが、」
ふむと何か考え事をし始めた多々野さんに訝しげな眼を向けた。というか、当初の目的だったLadyさんの跡をつけるっていう目的も失敗に終わってしまっているような…。
そんな時、突如ジリリリというよな音が辺りに鳴り響いた。
「あ、電話…。」
「ちっ。」
どうやらGirlさんの頭の電話の音だったみたい。へぇ…本当に頭が電話みたいに繋がるんだ…。止まれさんも標識そのものだし、多々野さんは…。あれ、多々野さんって何の頭なんだろう。
「(?マークはついてるけど…。)」
「もしもしー、あ!お姉ちゃん!」
「!」
「おや。」
「お姉ちゃんってことは、Lady…さん?」
「あー今?うんそうちょっとまだ外で。あ、お姉ちゃんは帰ってるのね?うん、うん。」
「どうやら無事のようだね。」
「はぁ…。」
「とりあえず、一安心ですかね。」
「うん、私ももう帰るよー。ありがとう…え、な、なんのこと~?」
私の気のせいではなく、Girlさんの声色の雲行きが怪しくなった。それは、多々野さんや止まれさんも感じ取ったみたいだった。
「も~お姉ちゃんったらそんなデタラメ言って…。」
「‘あら、どうしてデタラメなんて言うのかしら。’」
それは、電話越しにしてはあまりにもはっきり聞こえる声だった。というよりは、実際にこの場にいるぐらいの、
「で、追いかけっこは楽しかったかしら?」
そう、気のせいでなければ私の背後からその声が聞こえるような…。
「おや、」
「あ、」
「お姉ちゃん!」
皆さんが一斉に私の背後へと向けた放ったその言葉に私も恐る恐る振り返りました。そこには、受話器を片手に持った、電話頭の、私たちが昼間散々後ろ姿を追っていたLadyさんが立っていました。
「まったく。こそこそ何かしてると思えば。」
「いやぁ。付きまとう形になって悪かったね。」
「ごめんなさい。」
「止まれ君も悪かったわね。仕事増やしたみたいで。」
「…別に。」
結局、Ladyさんは最初っから私たちの存在に気付いていたそうで、わざと気付いていないフリをしていたらしいです。そして外で話すのもなんだからと今は多々野さんの事務所に集まることになりました。
「で、見かけない子がいるけど、多々野君、新しく人を雇ったの?」
「まぁ助手(仮)と思ってくれたまえ。」
「もしかしなくても私のこと言ってます?多々野さん。」
「訴えるなら手を貸すぜ嬢ちゃん。」
助手になった覚えもないし私も依頼者のはずなのに。本当にいざとなったら警察のお世話になろう。そう思ってお願いしますと止まれさんに頭を下げた。
「まぁ兎に角だ。Lady君がストーカー被害に遭っていることは変わらぬ事実。被害が出る前に対策をしないとね。」
「そこまで気にするほどでもないと思うけど。」
「お姉ちゃん!怪我してからじゃ遅いんだよ!」
「そうは言ってもねぇ…。」
ストーカーかぁ…大変そうだなぁとまるで他人事のように考えてしまった。でも、なんで好きなのに、そこまで頑なに姿を現さないんだろうなぁ…。
「お嬢ちゃん、よく独り言が零れてるって言われないか。」
「かれこれここに来てから数回言われてます。」
「開き直ってんなぁ。」
「うぅ…。でも、どうしてなんでしょう。好きなはずなのにストーカーしちゃうって。」
「ストーカー野郎の心情ってやつは俺にはよく分からんが。好きだから暴走する。好きだから支配したい。好きだからって思いが先走ってこうなるんじゃねぇのか。」
「…止まれさん随分と詳しいんですね。やっぱり警察さんだからですか。」
「まぁそう思っとけ。大人になればなるほど面倒くさいもんってことだ。」
「…よく分からないような。」
「その内分かるよ。」
うまくはぐらかされたような感じもしなくはない。けれど、そんなことより、
「私、今日寝る所、どうすればいいんだろう。」
もう夜もだいぶ更けてしまった時に思い出した。
多々野さんが、被害にあうかもしれない女性たちだけで返すなんて、警察の風上にもおけないなぁと、止まれさんに煽るよう言ったのもあり、LadyさんとGirlは止まれさんに自宅まで送られることになった。
そして私はというと、
「いやぁ~結局、たま君の家を探せず申し訳ない。ということで、事務所の空き部屋を使うといいよ。」
「いや!いやいやいや!」
「若い子は遠慮をするもんじゃないよ。それに君の荷物は、ほら。」
空き部屋を案内された部屋には、寮の管理人さんに預けていたはずの私の荷物一式が置いてあった。
聞くと、かんばせさんが事前に持ってきてくれていたらしい。
ということは、もう決定事項ということではないか。
「今日は疲れただろうからゆっくりお休み。また明日よろしくね。」
そういって多々野さんはやや強引に私を空き部屋へ押しやった。
空き部屋といいながらも、部屋の中は綺麗に整頓されていて、簡易型のベッドが一台ぽつんと置いてあるだけだった。かんばせさんが普段掃除をしていてくれるのだろうか。
ベッドに腰を下ろすと、よほど疲れていたのか、私の体はそのまま沈み込んだ。はぁを深いため息を吐き出すと、思い出すのはあの電話頭のお姉さんたちだった。
「Ladyさん達は大丈夫かな。」
つい数時間前に出会った、そしてたった半日の間に災難続きの私を気にかけてくれた優しい人たち。ストーカーというのはよくわからないけれども、好きなのに相手にこうして迷惑をかけてしまうなんておかしな話だと思う。
Ladyさんは最後まで気にする必要はないとは言っていたけれども、気になってしまう。
「…なんにもないといいなぁ。」
そして私の住むところも、早く見つかればいいなぁという思いを胸に、私は眼を閉じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます