夜の集まり

前編


「はぁ、疲れた」


 塾の帰り道。一人寂しくため息交じりに呟いても、それに対して答えてくれる人はいない。


 ただそれは私に友達がいないとかそういう訳じゃなくて、友達とはついさっき塾で別れて私は「家から近い」という理由で徒歩で帰っているだけ……という訳だ。


「秋か……」


 葉の色も変わって肌寒くなってもうそろそろ受験が本番という時期に入り、どことなく塾の中もピリピリとし始めている……のだけど。


 私自身は正直まだ受験モードに入り切れていない。


 多分、部活動を引退したことで燃え尽き症候群になってしまったからなのかも知れない。


 そのせいか……は分からないけど、どことなくボーッとする事も増えた様に思う。


 もちろん、頭では「このままじゃいけない!」と思っている。頭では思ってはいるのに……全然勉強に身が入らない。


 ここ最近は「毎日がつまらない」とすら思っている。


 そんな事を言っている場合じゃないというのに……頭が全然追い付かないというか……気分が乗らないというか。


「……月がキレイ」


 思い返してみると、何となく十八歳になった時もこんな感じだった様な気がしている。


 世間では「成人」として扱われているけど、自分の中で大きく何かが変わった……という実感は全然なくて。


 その時期に偶然見ていたテレビに出ていた同い年の子が「成人になって今まで以上に責任を持って――」なんて言っていたけど、正直私はそこまで大層な思いを持ってはいなかった。


 もちろん勉強が大事だという事も分かっている。


 こんな時は改めて自分を見つめ直すいい機会だと思うけど、それすらもままならない。


 だって全然頭が働かない。やる気が出ないのだから。


 今日だって塾で勉強してきたのに、ただノートにペンを走らせる『作業』をしていた様にしか思えない。


 一体、何のために塾に行っているのだろうか……。


「ん?」


 そんな時、いつも日中は小さい子供たちが遊んでいる公園に何やら人影と音楽が聞こえた。


「?」


 パッと見た感じだと何やら怪しい集まりに見えたけど、少し近づいてみると、どうやらダンスをしている様だ。


「あれ?」


 そして、その中に一人。見覚えのある人を発見した――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る