後編


「あ」


 どうやら向こうも私に気づいたらしく、元気よく手を振ってこちらに寄って来た。


「え、どうしたの? こんなところで」


 近寄って来た彼女は私のクラスメイトで、ちょっと話す事はあったけど、そこまで仲が良いわけじゃない。


 私としては成績がいつも上位の優等生で……学級委員も務めるくらいの真面目な人……だったと思っていたのだけど。


「えと。塾帰りで」

「あ、そうなんだ」


 これは意外な一面を見た様な気がする。


「あの、この集まりは一体?」


 辺りをキョロキョロと見渡しながら尋ねると……。


「ああ。ここでみんなと集まってダンスしてるんだ」

「ダンス?」


「そう。ほら、私たちの学校ってダンス部ないでしょ? ちょっとやってみたいなって」

「へ、へぇ。そうなんだ」


 ただ、一応『ダンス部』とは言っているモノの、大会を目指している様なものではなく、みんなで楽しむ事を目的としているらしい。


 だから、学校に部活動の申請をするとかそういう事をするつもりもないとの事だ。


「勉強の良い息抜きにもなるし、何よりスッキリしてね」

「……」


 この言葉は正直、意外な印象を受けた。


 彼女は好き好んで勉強をしていたと思っていたから。


「あ、そうだ! ね。ちょっとだけ踊っていかない?」

「え! でも……」


 家に帰ったところで夜遅くまで働いている両親はまだ帰っていないだろう。


「ちょっと踊るだけだから!」

「あ、ちょっ……」


 なんて言いながら強引に連れて行かれたけど……結論から言うと、とても楽しかった。


◆   ◆   ◆   ◆   ◆


 それから私は何度かこの夜の集まりに参加して、どうやら「ダンス」はずっと運動部だった私にとっていい息抜きになったらしく、勉強も捗って大学も無事に合格した。


「誘ってくれて本当に良かった」

「本当? それは良かった」


 卒業式の当日、私は卒業式の後に彼女と会って少し話をした。


 彼女曰く私が高校を卒業すると同時にあのダンス部はなくなってしまうらしい。


 それは少し残念に思うけど、あれをきっかけにダンスちょっと興味が出て来て実は本格的にやってみたいと密かに思っている。


「じゃあ、元気でね!」

「うん! じゃあね!」


 そう言って大きく手を振る彼女の姿は……あの月がキレイな日に出会った時と同じに見えた――。

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短編集 黒い猫 @kuroineko

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