ここに来た『理由』
第1話
『君は、どこから来たんだい?』
別にどこでもいいだろ。
『じゃあ、聞き方をかえよう。なんでこんなところにいるんだい?』
……。
『ふむ。しかし私から見ると、君はまだ成人していない様に見えるんだけどねぇ。それなのに死に急ぐのはどうして?』
――お前には関係ないだろ。
『君がこの足跡を辿っているという事は、死にたいのかい?』
どうだろうな。
『そうかい。私はてっきり観光に来たのかと思ったよ。わざわざ握り飯で死にに来るなんてねぇ。まぁでも、それしか持って来ていないっていうのもおかしいとは思っていたんだけどねぇ』
――ぐうの根も出ない。
確かに、自殺志願者がお弁当持参で自殺しに来るなんて……そりゃあ「お間抜けさん」と言われても仕方がない。
しかし、親にはそういう言い訳をしないといけなかった。
なぜなら、俺はここ一年ほど『ひきこもり』で、そもそも外に出ていなかったからなのだ。
だから、そんな俺が「一年ぶりに外に出る」なんて言ったモノだから、母さんは張り切ってしまった。
俺を女手一つで育ててくれた……優しい母さん。
尾がひきこもりになっても「いつか出てきてくる」と信じてくれていた事を知っている。
だから、そんな母さんを見て、俺は「出来れば……余計な心配はかけたくない」という気持ちになり、思わず「一人旅しに行ってくる」なんて言ってしまったのだ。
多分、母さんは俺が「どういった目的で外に出るのか」という事も知らない。だから、俺を見送る時も母さんは終始笑顔だった……。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「次は……駅。次は――駅」
そのアナウンスに耳を傾け、降りる駅が終点である事を持っている切符と路線図を見て確認した。
そうこうしている内に電車は駅に到着して五、六人ほどが乗り込んできた。
ほとんどは制服を着た学生だったが、その中に一人、杖をつきながらも少々足元がおぼつかないお婆ちゃんの姿が見えた。
「……」
俺はその姿を確認すると、お婆さんが俺に近づいたタイミングで俺は無言で席を立った。
一言だけ声をかけても良かったかも知れないが、その一言によって噛みつかれてしまう可能性もある。
少なくとも、こちらとしては厚意のつもりであっても、相手はそう取らないかも知れない。
こんな知らない土地で目立つことは正直避けたい。
それに、お婆さんが座らなくてもそれはそれでいい。別の人が座っても俺としては特に問題はない。
そもそも俺が降りる駅は『次』だ。それならば、むしろ立っていた方が降りる時が楽というモノだ。
なんて思い、俺は運転手が近くにいる前の方の扉にスマートフォン片手に近づく、俺はそのまま扉を背にした。
すると、先ほどのお婆さんがこちらの方を見て、可愛らしくペコンと一礼している姿が見えた。
「……」
俺もお婆さんにつられるように軽くお辞儀をすると、お婆さんはこれまた可愛らしく笑った。
そんなお婆さんを見ると、心の中がどことなく暖かくなった。
本当に「こんな人が俺の周りにも、この世にもっとこんな可愛らしい人増えてくれたなら、俺は自殺なんて考えないのに……」と、決心が揺らぎそうになってしまった。
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