第2話
駅を降りると、俺は早速『とある場所』に向かった。
「…………」
そもそも、俺もさっき電車に乗っていた学生たちと同じ『学生』だ。一応、学校は辞めていないから、今でも学生ではある。
実は四月になり、学年が上がったところで俺は、クラスの目立つヤツらに『いじめ』を受ける様になった。
ただ、正直何が『きっかけ』だったのか、全く分からない。心当たりもない。
そんな日々を送っていく中で、ある日。学校に行くと、俺の席……机とイスがなくなっていた。
――俺はその状況がまるで、自分自身の存在を全て否定された様な気になった。
そこから学校に行くことも辛く、怖くなり、段々と自分自身に自信が持てなくなり……最終的に『ひきこもり』になった。
ひきこもりを続けていく内に、俺は自分が生きている『理由』とか『意味』が分からなくなり、毎日『自殺方法』や『楽に死ねる方法』を調べるようになった。
でも、調べるだけ調べて……結局は自殺する事はなかった。とりあえず何かしら理由をつけては、止めていたのだ。
多分、口では「死にたい」と言いながら、頭では「死にたくない」と思っていたのではないだろうか……と、今となっては思う。
そんな折り、いつもの様にネットを見ていると、そこは『足あと』を辿るだけで死ねる場所がある事を知った。
今まで『そこ』に行った事もなかったし、そもそもその場所自体何も知らなかったのだが、何でも毎年多くの自殺志願者が訪れるらしい。
「…………」
そこまで有名ならば、確実に死ねるだろうと思ってここに来たのだが……。
目的の『足あと』は森の途中から始まっていたのだが、たどり始めたところで、突然一匹の黒猫が草をかき分けて現れた――。
俺は「はぁ」とため息を軽くついている間に、その猫は俺の足元で「ニャーニャー」と可愛らしく鳴いている。
猫の全身の毛は真っ黒。
ただ、目の色は黄色でも青でもない、イチゴのように鮮やかな赤色だ。
「なんで、こんな森の中に猫がいるんだ?」
猫の目の色も珍しいと思ったが、それ以上に「猫が森の中にいる」という状況に、俺は内心驚いていた。
「……腹が減ったのか? それなら、コレでも食え」
俺はそう独り言のように呟いて、カバンを広げて、足元にいる猫の目の前に握り飯をそっと置いた。
そもそも、カバンの中にはこの握り飯しか入れていない。後は、ズボンのポケットに入っている少しだけのお金だ。
死ぬつもりでここに来ているのだから、荷物なんてそもそも持ってくる必要はない。
「……」
猫が握り飯に興味を示している隙に、俺はさっさと『足あと』を進んだ……はずなのだが。
『置いていくなんてひどいじゃないかい』
「え」
『全く。ここ最近人が多く来ているせいで落ち着けないんだよ』
「…………」
叫びはしなかったモノの……いや、驚きすぎて叫ぶ事すら出来なかった。
なぜなら、俺の前には――いつの間に現れたのか、ついさっき握り飯を渡した黒猫が、なぜか『ペラペラと人の話をしていた』からである。
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