とある森の『カミ伝承』
第1話
その人たちはある日突然、引っ越して来た。
「……」
僕としては「またか……」という気持ちだった。今まで何度もこの地で生活をしようとしていた人間はいたが、結局誰もなじむことが出来ずいなくなってしまった。
どうやらこの土地は人間には合わない土地……と言いたいところだけど、実際のところ。
人間だけでなく僕の様な動物たちにもなかなかこの地は厳しい。
基本的にこの土地は寒いし、日差しが差し込む時間もあまり長くない。日差しがあまり差し込まないという事は、それだけ日影が多いという事だ。
だから、農作業をしようと思ってもなかなかうまくいかない。
ただ川はキレイなモノ流れているから「やりようによっては……」とポジティブに考えたのだろうか。
でもまぁ、確かに『やり方』を考えればいくらでも生活は成り立つだろう。それこそ「多くを望まなければ……」ではあるが。
それでも、この地で生活が出来た人間はいない。
なぜか……それは多分、この地で起きた『ある出来事』が『伝承』の様に伝わり、しかも『それ』を見てしまったからだろう。
彼らは『それ』を知っているのだろうか。それとも知っていながら来たのだろうか……もし、そうだったら相当なもの好きだ。
「…………」
いや、もしかしたら『何らかの理由』で人里離れたここで生活せざる負えなくなったのだろうか……。
「ほら、カミエルここなら大丈夫よ」
今、声をかけたのは母親だろうか。
「…………」
ただそう言われて腕を引っ張られる様に連れて来られた子供の感情が……ない。いや、死んでいるように見えるほど『無表情』だ。
その表情は……僕がこの地でたった『一匹』になった時に水面に映った表情と似ている。
「うーん、言い伝えみたいなモノがあるって聞いていたけど……今のところは問題なさそうだな」
今のは父親か。
「…………」
もしかしたら、彼らは『物好き』と『理由』の両方でこの地に来たのかも知れない……と崖の上から彼らを観察してそう感じていた。
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