参拝で一杯

Twitter300字SS第54回お題「水」より

(300字、改行・スペース含めず)


 差し出されたのは小さな朱塗りの盃。中は透明な液体で満たされている。アルコールのあの独特な匂いは感じられない。


「正真正銘、水です」


 胡散臭い笑顔を張り付けて紫袴の男性が言う。


「怪しげな宗教じゃないですよね?」

「敢えて言うなら神道ですが」


 とにかく、これは今の貴女に必要ですから。

 そう促されて不承不承、盃を受け取り呷る。その瞬間。

 とぷん、と全身何かに浸された感覚に襲われた。その何かは瞬時に体中に染み入り、そしてあっという間に遠ざかっていった。

 気付くと、飲み干した筈の盃にどす黒い液体が満ち満ちていた。随分軽い。体じゃなく心が。


「ほら、必要だったでしょう」


 紫袴の男性が笑う。


「水はケガレを流してくれますから」


【了】

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