ほぼノンフィクション

霧に沈む瀬戸内海

Twitter300字SS第48回お題「霧」より

(300字、改行・スペース含めず)


 トンネルを抜けると、真っ直ぐに伸びた橋、そしてその下に穏やかな海を臨める。筈だった。

 しかし、いま眼前にある景色は。


「海が……霧に沈んでる」


 車窓の外の光景に、家族とともに感嘆した。

 空は淡く優しい朝日に包まれ、まるで荘厳な神殿のように橋の主塔が聳え立つ。

 そして、下は一面の白。海の色は全く見えず、濃厚な白い霧が、ゆっくりゆっくり橋の下を潜り抜けていく。点在する島だけが、まるで雲に浮かぶ城のように霧の中に揺蕩い、輪郭線を滲ませている。

 まるで幻想的な絵画を見ているかのよう。

 この海のある街に生まれ、この海とともに育った自分ですら、思わず呼吸することすら忘れて見入ってしまった。旅行初日、最高の始まりだった。


【了】


*春先の家族旅行で瀬戸大橋から実際に見かけた光景を元にしています。

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