現代もの(恋愛・ファンタジー要素なし)

ふたりぼっちの月見酒

Twitter300字SS第37回お題「酒」より(300字、改行含まず)


「遅くなった」


 月も随分昇ってからの到着になったが、親友はいつもと変わらない笑顔で迎えてくれた。


「今夜は中秋の名月。月見酒にしたくてな」


 持参した純米大吟醸酒を早速開け、揃いの杯に並々注ぐ。


「じゃ、まず一献」


 一度軽く杯を持ち上げ、そのまま一気に煽った。

 秋の夜風を受けて程良く冷えていた頬に熱が仄かに灯る。

 親友は何も言わず、ただ静かに微笑み、杯の中で満月が揺らぐことなく光っている。

 そんな静寂が心地よい月夜だった。


「今年は満月のせいか一段と酒が旨い。また来年もいい酒を共に呑もう」


 そして最後に親友の杯を手に取り、一気に飲み干した。



 黒縁の写真立ての中で、親友はいつまでも満月のように優しい笑顔をたたえていた。


【了】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る