第61話《眩しいよ、さくら・1》
ここは世田谷豪徳寺・61(さつき編)
《眩しいよ、さくら・1》
関空快速を降りて、三階の乗り換え通路を歩いていると妹のさくらを見かけた。
驚いた。
さくらはただの通行人なんかじゃない。周りを沢山のスタッフやカメラに囲まれてロケの最中だった。
さくらは、あたしがフランスに行く前からマスコミの仕事をしていた。しかし、女子高生がエキストラに毛の生えたようことを始めたぐらいの認識しかなかった。
それが、相手役の勝呂勝也とカメラにフォローされながら歩いている姿は、もう立派な女優だった。
ツーテイク撮る間、あたしは身動きできずに、ずっと妹を見続けていた。
「お姉ちゃん、どうしたのよ!?」
乗り換えのアナウンスがあって、そろそろと思ったら、さくらが衣装の女子高生姿で駆けてきた。
「あ、ああ。乗り換えで通りかかったら、撮影現場にでくわしちゃって。ビックリしちゃった」
「ビックリは、こっちよ。フランスにいるはずじゃないの?」
「あ、ちょっと事情があって……」
「ちょっと待ってて。あたしのテイクは終わっちゃったから、マネージャに言って場所確保してもらう」
五分ほどすると、さくらは上着をひっかけて「こっち」と、あたしに目配せをした。
「ロケで、泊まる部屋だから、気楽にしてね。ルームサービス、コーヒーでいいよね?」
「あ、ついでに何か食べたいな」
「だろうと思ってフレンチパンケーキ付けといた」
「アハ、持つべきものは妹だ」
「で、どうしてクレルモンに居るはずのお姉ちゃんが、あたしのロケ見に来るわけ?」
あたしは、ゆっくりと窓の外を見た。ざっと目に入るだけでも三万人ぐらいの人が歩いたり、早足だったり、人待ち顔で立っていたり、交差点を横断したり、地下街に飲み込まれていったり。この人たちは、ほんの偶然で、大阪駅の北側、ヨドバシカメラの前を行き来している。で、99・99%なんの関係もなくすれ違っていく。
あたしは、クレルモンまで行って、交通事故に遭ったようなものだった。
「え、交通事故に遭ったの?」
さくらがスカタンを言う。
「違うわよ。川端康成とか司馬遼太郎とか、大阪に関係ある作家のこと調べに戻ってきたのよ」
「え……ワケ分かんないよ。そんなのをわざわざ大阪に調べるためにクレルモンから来る?」
「という名目」
「で、本当のところは?」
こういう時の目の輝かし方は、わが妹ながらチャーミングになったと思う。やっぱり人に見られる仕事というのは大したものだ。
「アラブの大富豪に追いかけ回されてるって言ったら、どんな顔する?」
「え!?……こんな顔」
さくらは、文字通り桜一輪満開になったような顔になった……。
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