第59話《大阪府立真田山学院高校》
ここは世田谷豪徳寺・59(さくら編)
《大阪府立真田山学院高校》
連休の後半は大阪だ。
三日はH市のホールを借り切ってコンクールのシーンを撮った。そして、四日からは大阪に飛んで、舞台となる大阪府立真田山学院高校を丸三日間借りての撮影。現場近辺のシーンも含めると五十シーンを超える。
撮りやすいモブシーンから入った。
テスト中の教室、昼休みの中庭、演劇部の部室になっているプレゼンテーション教室、休み時間の廊下、下足室、職員室。そのほとんどにはるかさんは出ている。自分自身の役とは言え、映画はお芝居だ。現実にいた友達とは違うエキストラのクラスメートを相手に、春、夏、秋のシーンを撮る。当然クラスメートとの距離感が違ってくる。
「カット! はるかとの距離の取り方がウソっぽい。興味はあるけど、近寄りがたい。でもってそれぞれの生活感。夕べ見たテレビの話とか、新しく開店した駅前のお店とか、宿題大急ぎでやってるとか……そういう各人の生活出して」
監督の抽象的なダメを助監督の田子さんが演技プランに変えて一人ずつつけていく。はるかが転校してきたころの教室のシーンだけでも半日かかってしまった。
いや、半日ですんだというべきか……。
「そこさ、目だけ教科書見て、目の端っこで、はるかを見るの。まず顔ね。そいで上半身、下半身、そいで全体の印象。でもって自分やクラスの人間と引き比べて距離感つかむの」
そうアドバイスしてくれたのは、東亜美役の一ノ瀬さんの従姉さん。
H市のロケだけで終わるはずのエキストラだったけど、意外な演技力があるので大阪まで来てもらった。
で、これを直接頼み込んだのが、はるかさん。やっぱり見る目と行動力が違うと思った。一ノ瀬薫さんて言うんだけど、人の心を掴むのも上手い。休憩時間には自然に、他のエキストラと会話して、すぐに本物のクラスメートのようにしてしまった。
「シーン増やすよ」
監督の言葉で、薫さんと、はるかさんのちょっとした絡みが増えた。
「あの……」
「あ……?」
最初のよそよそしさから、テスト終了後、目だけで「できた?」「ううん」までやってのけた。で、昼には学級委員長という「役」になり、モブシーンを教室やら廊下で撮った。とりあえず場面のブリッジになるようなシーンばかりで、その多くは編集の段階で切られてしまう。
「薫さん。なんで、そんなに勘いいの?」
思わず聞いてしまった。
「よくないですよ。ただ、学校じゃ頭打ちながら生きてきたから、いろんなパターンが頭の中にあるだけです」
気楽にロケ弁代わりに学校の食堂ランチを食べながら、なんだか昔からの友だちのように話した。
「このカラマヨドンての、いけますね!」
あたしも同感だった。丼ごはんの上に唐揚げとマヨネーズと、薄目の出汁がかかっていて、東京じゃ絶対考えられないメニューだった。
「これ、連休明けから十円上がるんです」
エキストラで、保健委員の役を演っている三好清海(はるみ)さんがグチった。
彼女は真田山学院高校演劇部の現役部長。ちょうどはるかさんと入れ替わりに、この学校に来た人で、たった二人になった真田山学院高校演劇部を一人で支えている。しょぼくれるのが嫌なんで、「大阪府立真田山学院高校演劇部公式ブログ」をネットで流して、内と外からクラブを守ろうとしている。同じ高校生でも、あたしなんかより立派な子がいる……のは、分かったが、こんなに集まるのは、やっぱはるかさんの人徳。
昼からは、一番むつかしいシーンを撮った。
あたしの演ずる由香が、はるかに張り倒されるシーン。二人ともバイオレンスには縁がない(はるかさんは、昔現実にやったシーンだけど、自分が演技で演るのは別物のようだ)殺陣師の人が入るときれいになるんだけど、高校生らしさが抜けてしまう。
テイク5で救世主が現れた……。
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