第四十三便 寝顔を見るなんて言わないでっ!
『あ』
グリシーヌがお兄ちゃんをじっと見つめた。ヴィオレットがまたぽかんと口を開けている。
それから、姉妹が顔を見合わせ、笑いだした。
『ウフフフフフ』
『アハハハハハ』
二人はお腹を抱えたり互いの肩を抱き合ったりしながら笑い転げている。
『も、もう、荷車の騎士様ったら、冗談おっしゃって』
『に、に、荷車の騎士にしてはなかなか面白いことを言ったですの』
二人は涙目になって笑う。
『そんな、人が乗れるような大きな鳥はこの島にはいませんわ』
『で、伝説のドラゴンでも見つけるつもりですの? 万が一見つけても食べられて終わりですの』
笑い過ぎだよ、おまいら(←古っ)。
考えてみると、お兄ちゃんはこの世界で、人を笑わせるようなことを言ったことがなかった。
いや、大体正確に同時通訳してるけど(汗)、この世界での冗談っていうものがどんなものかわからないだろうし。
というか、今の発言自体、冗談でも何でもないけど。
ここは怒っていいとこかもね、お兄ちゃん?
でも、お兄ちゃんはでも、二人が笑い終わるのをじっと待っていた。
さすがに笑い過ぎたと思ったのか、グリシーヌがふと笑うのをやめ、慌てて言った。
『あ、も、申し訳ありません、荷車の騎士様。つ、つい、おかしくて。ほ、ほら、ヴィオレット』
『で、でも、笑っちゃうですの』
たしなめられたヴィオレットは少し恨めしそうに姉を見ながらようやく落ち着いた。
「いいえ、気にしないで下さい」
お兄ちゃんは優し気な声で言った。
「二人のかわいらしい笑い顔を見られて良かったですよ」
またつまらぬ
『なっ?』
グリシーヌの息が止まり、その頬が染まる。
『にっ、荷車の騎士の分際でっ!』
ヴィオレットが顔を赤くしながら半分涙目でお兄ちゃんを睨む。
「考えてみれば、お二人ともずっと緊張されていたでしょうからね。笑って気持ちが落ち着いたのなら、なおさら良かった」
お兄ちゃんはそう言うと立ち上がって、窓の外を見た。
「多分後数時間、ええと、この国の時間では3~4時間もすれば嵐も去り、波もおさまるでしょう。そうしたら出発しますから、それまで少し寝ましょう」
『あ、はい』
グリシーヌが頷き、それから『で、でも……』ともじもじし始めた。
「どうかしましたか? まだ眠くないですか?」
『あ、いいえ。荷車の騎士様の料理の魔法で暖まったし、気持ちも落ち着いたので少し眠気を感じてはいるのですが』
『荷車の騎士!』
ヴィオレットが明らかに無理した強い口調で怒鳴った。
『ヴぃ、ヴィオレットの寝顔を見たら殺すですの』
ヴィオレット、そういうのはツンデレっていて嫌われるよ?
『わ、私も』
グリシーヌがお兄ちゃんをちらちら見ながら小声で言う。
『荷車の騎士様に、ね、寝顔を見られるのは、恥ずかしいです』
それから、更に小さな声で付け足した。
『ま、まだ、今は……』
死ね。
『つーか、二人ともオレの助手席で寝てたの忘れてんの? よだれ垂らして?』
『た、垂らしてません!』
『垂らしてないですの!』
二人が同時に叫び、それからお兄ちゃんを見た。
『……あ、の、荷車の騎士様も?』
『い、今更だけど、こここ殺すですの!』
「いや、俺は知らない道でフッフの運転に夢中だったし」
お兄ちゃんはそう言いながら戸口に向かった。
「それに、どうぞご安心を。俺は玄関前に停めたフッフの運転席で寝ますから」
『あ……』
グリシーヌがほっとしたような、でも、少し寂しそうな顔をした。
ヴィオレットは明らかに残念そうな顔をしている。
よし、決めた!
オレはお兄ちゃんをこの国の王様にする。
そしてオレはその宰相になる。
最初に作る法律は、もちろん、
淫行条例!
……でも、最初に検挙されるのが王様だったりして。
「途中、火の加減を見に来ることはあると思いますが、お二人の寝床には近づかないようにしますので」
……あり得ないか。
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