第四十二便 剣と魔法の世界で鉄炮伝来とか言い出さないでっ!

『そう言えば、フッフはいなかったの?』


 意識が飛びかけていたオレにグリシーヌが問い掛けた。どこか慌てているように見えるのは、多分、お兄ちゃんとヴィオレットのフラグを、それが0.1パーセント以下の確率だったとしても折っておこうという焦りだと思う。


 一応は王家の跡継ぎだってのに、やることがセコイね。

 でも、ここはグッジョブ。


 ……と言いたいところだけど、三年前なんて記憶はない。

『え、ええと?』

「納品の帰りですし、当然フッフは一緒でしたよ」

 オレが通訳する前に、お兄ちゃんが雰囲気でわかったみたいで答えた。

「フッフがいなければどうにもならなかったでしょうし」

『やっぱりですの。魔獣を従えていたから、荷車の騎士は雪の軍勢に飲み込まれなかったですの』


 ヴィオレットが、どこか落胆したような顔で言った。


「ただ、フッフはまだ納車された、まあ、生まれたばかりで、今みたいに喋ることはできませんでしたが」

『え? じゃあ、まだ生まれたばかりのフッフを連れて雪の軍勢と対峙したのですか?』

 グリシーヌがもうアレそうな感じでお兄ちゃんを見つめる。

『ま、まさかですの……』

 グリシーヌが、言葉と裏腹にどこかほっとした顔をする。

お兄ちゃんはでも、浸ってる二人には答えず、「いずれにせよ、〝夏の魔女〟と〝冬の魔王〟について、詳細を知る人はいない、ということですか?」と訊いた。

『はい』

 グリシーヌがうなだれる。

『我々の国は、南の国が滅ぼされたという情報を得てすぐ、先代の王、つまり祖父が、王位をまだ十代の父に譲り、当時の辺境都市、今の城がある場所へ撤退させた、ということです。祖父と勇猛な兵士たちは残ったようですが、二度と会うことはなかったようです』

『シェーヌ将軍も、後方部隊だったから助かったらしいですの。だから、いつも、自分は冬の魔王の本当の恐ろしさは知りません、と言ってますの』

「そうですか」

『もうしばらくしたら冬の魔王の季節です。すでに、かつて防壁となっていた北の国はもうありません。西の国が攻めて来たのは、今年、冬の魔王の来襲があった場合の砦の材料、武器や暖のための燃料の確保が目的だと思われます。東の国の森林や鉱山は、まだ手つかずのところも多いですから。もちろん、この港を掌握し、最新の武器や製品の輸入ルートを掌握したい、と言うこともあると思います』

「武器にはどんなものがあるんですか?」

『接近戦では剣、槍、こん棒、斧など。遠距離からは弓矢や投石器です。外国では既に〝鉄炮てっぽう〟というものが作られているらしいですが』

「〝鉄炮〟ですか?」

『ええ。ただ、非常に高価で、壊れやすく、扱いが難しいらしいので、貿易船の船員も実際に見たことがある人はわずかだそうです』

『ふん! そんな蛮族のおもちゃなどどうせ使えないですの! ヴィオレットの弓の方がはるかに性能がいいですの!』

『はあ? バカじゃないの? 銃ってのは弓矢なんかよりはるかに』

 オレはつい口を挟んだ。グリシーヌが小首を傾げる。

『〝じゅう〟?』

「フッフ」

 何を言ってるかわからないはずなのに、お兄ちゃんがオレを制した。

「いずれにせよ、グリシーヌ姫様たちの国はもちろん、西の国も〝鉄炮〟はないんですね?」

『ええ。あればとっくに使用されているはずですから。ね、ヴィオレット』

『絶対ないですの。あってもヴィオレットの弓矢にはかなわないですの』

「でも、例えば、上空から攻撃されたら?」

『はい?』

『何ですの?』


 姉妹がきょとんとしてお兄ちゃんを見る。


『上空から、というと、城壁や崖の上から、ということでしょうか?』

『そんなもの、ヴィオレットの矢が全て撃ち落とすですの!』

「いや、もっと高いところから、そうですね、例えば、敵が鳥のように空を飛んで攻撃してきたら?」

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