第四十四便 ハーレムデフォルトとか言わないでっ!

 寝床を作り、横(斜め)になってから、お兄ちゃんはずっと黙ったままだった。

 ホルダーにセットされたスマホから見ても、何だか話しかけづらい感じ。

 それでも、目を閉じないで夜の雨空を見ているお兄ちゃんが気になって、オレはとうとう話しかけた。

 

「お兄ちゃん、大丈夫?」

 

「え、何が?」


 お兄ちゃんがオレ(スマホ)を見た。


「だって、二日連続でオレの中じゃん。オレは嬉しいけど、お兄ちゃん、体伸ばして寝てないし」

「まあ、二、三日は大丈夫だよ」

「小屋で寝れば良かったじゃん。グリシーヌたちを気にしないで」

「そうはいかないよ。姫様たちだって、わけのわからないおっさんと同じ部屋でなんか寝ない方がいい」

「で、でもね、ヴィオレットはともかく、グリシーヌは、確実にお兄ちゃんを意識してるよ。気付いてないかもしれないけど」


 何で言っちゃうんだよ?

 オレのバカ!


 でも、自然と口から言葉が出ちゃった。

 口、ないけど。


 別にフラグを立て直したいわけじゃない。

 かといって、釘を刺すってのも違う。


 とにかく、言わずにはいられなかった。


 グリシーヌはライバルだし、あからさまにお兄ちゃんにアピールしてるの見るとムカつくけど、そのたびにお兄ちゃんに躱されるのはやっぱり哀れだ。

 〝強敵〟と書いて〝とも〟って読むらしいしね。


 まあ、でも、お兄ちゃんは気づいてないよね、鈍感だから。


「そうだね」


 気付いてるし。

 

「グリシーヌ姫様は、そんな感じだね」

「お兄ちゃん?」

「でも、それは悲しいことだよ」


 オレ(スマホ)の明かりに映し出されたお兄ちゃんが眉を顰めた。


「悲しいって?」

「城内には、流行り病のせいもあるかもしれないけど、女性の方が圧倒的に多かった。それは、ここへ来る途中に通過した村も、城に近いところでは同じ状況だった」

「あ、そう言えば」

「この国の人口がどのくらいかは知らないし、構成もわからないけど、俺たちが元いた世界と同じようなもので、見た目だけじゃなくて遺伝子構造なんかも同じだとしたら、男、特に若い男が明らかに少ない」


 確かに、城で会ったそれなりに若い男は、ほぼ衛兵(城の守備兵)と王様、医者だけだ。他は女か老人ばっかりだった。

 途中の村でも、ある程度南下するまではやっぱり若い男はほとんど見なかった。


「ヴィオレット姫様のような例外はともかく、戦争に駆り出されるのは男性、それも若く健康な男だ。必然的に女が余る」

「あ……」

「グリシーヌ姫様たちははっきりと言わなかったけど、北の国や南の国の難民もそれなりに流入してるはずだ。でも、シェーヌ将軍のような人は例外で、多くは女性や、その当時の守備兵隊長さんのような子供。後は老人だろう」

「そっか」

「俺はヨーロッパ中世だ何だについては良く知らないけど、ここが地球の近代以前の世界のような価値観だとしたら、女性、特に王家の娘の最大の使命は、跡継ぎを残すことだろう」


 確かに、本人も事実上の後継だと言っていた。


「東の国には王子様がいないみたいだから、グリシーヌ姫様は、きっと子供の頃からそう言う教育を受けて来たはずだ。でも、健康な男は戦争に行ってしまって周りにいない。そういう時に、一応は健康な男が現れた。通常の世の中ならかなりしょぼくても」

「しょ、しょぼくないよ! お兄ちゃんはしょぼくないよ!」

「グリシーヌ姫様は、自分の使命を運命と勘違いしている。まだ多分十代半ばなのに、王家の長女としての義務を果たすため、倍くらいの年のおっさんとつがう、俺たちのいた時代の女子高生なら絶対望まない未来を受け入れようと脳内麻薬を出している。いや、多分、そう考えるように悪意なく洗脳されてる」


 そう言えば、お兄ちゃんは、自分にとって大切な存在がグリシーヌたちに近い年代だったような気がする、って言ってた。


「例えば、不敬かもしれないけど、もしグリシーヌ姫様が俺の妹だとして、俺みたいな奴を『結婚したい』とか言って連れて来たら、考え直せって言うよ。当然、娘でも」

「そう考えると、あの王様って無責任だよね」

「いや、そうとも言えないよ」

「どうして?」

「それはもう、俺たちのいた世界とは価値観が違う、としか。むしろ、俺たちの方がよそもんなんだから、俺たちがここに合わせるべきなんだろうけど」

「じゃ、じゃあ」


 声が裏返りそうになるのを抑えて訊いた。


「お兄ちゃんは、自分では納得してなくても、この世界の価値観に自分を合わせて、この世界で生きていくの?」

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