第四十一便 二指真空把なんて使わないでっ!

『今朝もご説明した通り、この島は、数世代前からは東西南北、四つの領土、つまり四つの国がありました』


 ヴィオレットを何とか落ち着かせ、グリシーヌが話し始めた。


『その中でも最も小さいのが我が国、最も大きな国が西の国です』

「残った二つは?」

『滅びました』


 グリシーヌが目を伏せた。


『南の国は三十年程前。北の国は、一昨年』

「それでは、それらの国を滅ぼしたのが?」

『はい、〝夏の魔女〟と〝冬の魔王〟です』


 ヴィオレットが震えだす。


『南の国が滅ぼされた時、当時の私たちの国の首都、つまりこの港町もその余波を受け、撤退を余儀なくされました。守備兵隊長のゴシェさんは南の国の出身です。と言っても、当時はまだ幼く、〝夏の魔女〟の具体的な記憶はないようですが』

「〝冬の魔王〟については?」

『前線に立つ将軍の一人が、北の国の出身です。ね、ヴィオレット?』

 

 ヴィオレットはそう問いかけられても答えず、お兄ちゃんを見た。


『な、何人いたですの?』

「何人、とは?」

『雪の軍勢の攻撃を三日三晩受けた時、荷車の騎士の軍は何人いたですの?』

「軍?」


 お兄ちゃんは言いかけてから、オレの分身を掴んで言った。


「話がかみ合ってないみたいだけど、正確に通訳してくれてる?」

「し、してるよ!」


 少なくとも、今は。


「そう」

『どうしんたですか?』

 グリシーヌが不安そうに問い掛ける。

「あ、すみません。で、ヴィオレット姫様の質問に対する答えですが、オレたちのいたところには十数名でした」

『そ、そのうち、何人生き残ったですの?』

「え、そりゃ、当然全員です」

『そ、そんな馬鹿なですの!』

 ヴィオレットが真っ青になりながら言った。

『あの勇猛なシェーヌ将軍が震えながら言ってたですの! 雪の軍勢に囲まれて、二百人の軍が一日目で半分になり、翌日には更に半分、三日が過ぎて生き残ったのはたった十二人だったって』

 そしてお兄ちゃんを指さす。

『そ、それを、十数人で三日間耐えて、全員生き残るなんて、あり得ないですの!』

『ね、だから言ったでしょう?』


 グリシーヌがヴィオレットをそっと抱き寄せた。


『さっきの発言は、確かに荷車の騎士様がひどいわ。でもね、もしあの時、ヴィオレットが矢を放っていたら、ヴィオレット自身の命がなかったかもしれない』


 ……え?


『お、お姉さま……』

 ヴィオレットが震えながら姉を見つめる。

『でも、荷車の騎士様は、返り討ちにだってできるのに、頭を下げることで事態をお納めになった。思想は違えど、騎士の中の騎士よ』

『ぐっ……』

 グリシーヌだけじゃなく、ヴィオレットまでお兄ちゃんをうるんだ目で見つめる。


 まさか、そっち?

 ヴィオレットまで?


 いくら何でも、お兄ちゃん、弓矢で撃たれたら怪我するか、最悪死ぬよ。

 〝二指真空把にししんくうは〟とか使えないよ?


 ほら、お兄ちゃん。

 今度こそ否定しないと、マジで誤解されるよ。

「俺たちのいた世界なら、三日くらいどうってことないですよ」

 とか、

「いくら俺でも、矢を避けるのは無理ですよ」

 とか。


 でも、お兄ちゃんはそれについては何も言わず、「シェーヌ将軍は、冬の魔王についてもう少し詳細を騙っているんですか?」と訊いた。

『将軍はあまり話したがりませんし、ヴィオレットたちもあまり訊かないようにしてるんですの!』

「そうですか」

 お兄ちゃんの声が優しくなった。

「ヴィオレット姫様も、やはり優しいんですね」

『ば、バカを言うなですの!』


 又、つまらぬ言葉ものを訳してしまった。


 ヴィオレットはさっきまで青かった顔を赤くして目を伏せた。


『に、荷車の騎士様……』


 そしてグリシーヌは、嫉妬を隠さずお兄ちゃんを見た。


 お兄ちゃん。

 ほ、本気でJKとJCものにするつもり?


 確実に血の色が違うオレなら、言う権利、あるよね。


 〝てめえらの血は、なに色だーっ!!〟

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る