第三十便 夫婦気取りしないでっ!
その後お兄ちゃんが自前の鍵をつけるときも、インパクトドライバーを見てグリシーヌが目をキラキラさせたりヴィオレットが絡んできたりしたけど省略。
で、港に向かうことになったんだけど。
オレもお兄ちゃんも港の場所を知らないから、地図もない状態では案内が必要だ。
『もちろん、私がご案内します。荷車の騎士様、私を連れて行って下さいますか?』
〝私を港へ連れてって〟
って、何年前のネタだよっ!!
年がバレるわっ!
……オレ、まだ三歳だけど。
で、当然のごとく、ヴィオレット。
『お姉さまを悪漢と魔獣なんかに預けられませんの! ヴィオレットも行きますの!』
「申し訳ない、ヴィオレット姫様。フッフは二人乗りなんですよ」
『荷車の騎士がどけばいいですの!』
『ふざけんなっ!』
「お二人のどちらか、フッフの運転ができますか?」
『馬車は操れますが、フッフは無理です』
グリシーヌが妙にきっぱりと言った。それからヴィオレットを見る。
『ちなみに、ヴィオレットは馬には乗れますが馬車の操縦はできません』
『お姉さま!』
ヴィオレットが泣きそう顔でいい、それからお兄ちゃんを睨みつけた。
『ヴィ、ヴィオレットなら大丈夫ですの! 荷車の騎士のような卑しいものができて、東の国第二皇女であるヴィオレットができないわけ』
『ヴィオレット! 恥ずかしいからやめて!』
グリシーヌが声を荒げた。
『我が国は皇女なんていうような大国ではないわ。実際、王家の次女のヴィオレットも戦地に行くし、人がいなければ、実質跡継ぎの私が外国からの薬草の買い付けに馬車を駆る』
『うう』
『ヴィオレット』
グリシーヌがヴィオレットの頬に手を添えた。
『ヴィオレットはまだ幼いけれど、男性にも負けない戦士。早く前線に戻って、皆にもう少し頑張るよう伝えてね』
ヴィオレットはしばらく俯いていたが、小さく頷き、言った。
『わかりました、お姉さま』
『わかってくれてありがとう』
『荷車の騎士が運転するのは許しますの。でも、お姉さまを荷車の騎士から守る必要がありますの』
『え?』
『だから、ヴィオレットも行きますの!』
は?
『ヴィオレットも乗って、三人で港に行きますの!』
『二人乗りだって言ってんだろ!』
『お姉さまもヴィオレットも痩せてるから、詰めれば何とかなりますの!』
『ざけんな小娘! お前まで乗ったらタイヤが減るじゃん!』
『魔獣の分際で生意気な!』
「まあまあ、フッフ」
『ヴィオレット、やめなさい』
お兄ちゃんとグリシーヌが同時に仲裁に入る。
それから目を見合わせて、苦笑する。
きーーっ!!
『ヴィオレット! お前のおかげでフラグがまた立ったじゃん!』
『何ですのフラグって? ヴィオレット、魔獣語なんてわかりませんの!』
『オレだってヴィオレットの変な口調なんてわかんないもんね』
『魔獣ごときに王家の高貴な言葉遣いが理解できるわけないですの』
……いつまでやってるの、ってお兄ちゃんに怒られた。
早く薬草を採りに行かないと、って。
そして隣で
フラグどころか、既に夫婦気取りって。
グリシーヌ、侮りがたし。
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