第二十九便 激写なんてしないでっ!

「ところで、王様。一つお願いがあります」

 お兄ちゃんがだめな王様を向いた。


『何だね?』

「倉庫を一つお借りしたいのですが。積荷を保管して置けるように」

『積み荷?』

「ああ、王様はご覧になっていませんでしたね」

 お兄ちゃんはオレの後ろに回った。

 お兄ちゃんの首からぶら下がって、オレ自身を見てるのも変だけど。


「フッフの背中の部分は荷台になっています。で、今、ここに、オレがお客から預かった荷物を積んでいます。薬草を運んでいる間に、これを保管する場所をお借りしたいと思います」

『そうか』

 王様は頷いた。

『それでは、兵士を立てて厳重に保管しよう』

「あ、そこまではされなくても。屋根と壁と扉のある部屋があれば。鍵は、なければ俺が自前のものをつけます」


 結局、厩の裏側の道具入れを借りることができた。

 お兄ちゃんは荷物の箱に養生テープで番号をつけ、それぞれの伝票と照合した。

 それから、店舗あて、工場あて、個人宅あてに分けて積み上げると、全部の写真を撮った。


『何をなさったんですか?』

 後ろで見ていたグリシーヌがしゃしゃり出て来て訊いた。

「あ、写真を撮ったんですよ」

 お兄ちゃんがバツの悪そうに答えた。

「この国の方々を信用していないわけではないのですが、一応お預かりしたものなので」

『シャシンとは?』

「ああ、すみません。まあ、絵みたいなものです」


 お兄ちゃんはそう言うとスマホの画面を見せた。グリシーヌは、その内容と並べられた荷物を交互に見て、それからお兄ちゃんをうっとり見つめた。


『一瞬で絵を描く魔法もお使いになれるんですね?』


 おいコラ! グリシーヌ! またメスの顔してんじゃねーよ!

 そしていつの間にいたのか、隣の小娘!

 口をぽかんと開けてバカ面晒してるけど、最初の険しさがどんどん薄れてるじゃん!


『こんな魔法を使える方がこの世にいらっしゃるなんて、素敵』

「もちろん美しい今の君をそのまま描くこともできるんだよ。やってみようか?」

『はい、お願いします。荷車の騎士様』

(中略)

「ドレスが邪魔だな。生まれたままの姿こそ、本当のグリシーヌの美しさだろ?」

『荷車の騎士様のおっしゃる通りです』

「それじゃ、邪魔な布切れはどけてみようか?」

『はい、仰せの通りに』

『ま、待つですの! お姉さま! 荷車の騎士!』

『ヴィオレット、どうしたの?』

『騙されないですの! 荷車の騎士は、きっとその魔法で、お姉さまの魂を奪うつもりですの!』

『そんな……』

『荷車の騎士! 魂まで奪うつもりですのっ!? とっくにヴィオレットたちの心を奪ったくせに……』

『そうね、ヴィオレット』

『お姉さま……』

『荷車の騎士様、奪うなら、体も一緒に』

『ええ、そうですの。荷車の騎士は、責任を取るべきですの』


 きゃーーーーーーっ!!


 いくらお兄ちゃんが鈍感でも、年齢換算JKとJCにそんな顔ばっかされたら、歳考えずにぐらっと来るかもしんないじゃん。

 元の世界にもそういうバカが多かったし。

 ましてこの世界に、淫行条例なんてないだろうし。


「あ、別に魔法でもないし、俺だけが使えるものでもないんですよ」

 お兄ちゃんは爽やかに笑った。

「俺たちのいた世界では、それこそ、グリシーヌ姫様の年頃でもけっこう持っている、まあ、使える子が多い魔法ですよ。大人はほぼ当たり前だし、俺自身、仕組みもわからず使ってるだけだし」


 ……いつも通りだった。

 ヴィオレットは口を尖らせている。絡もうとして肩透かしを食らった感じ。

 

 一方グリシーヌは、露骨にしょぼくれた顔をしている。

 肩を落として、『そうですか』とだけ。


 でも、うん、わかるよ、その気持ち。

 オレはちょっとだけグリシーヌに同情した。

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