第二十八便 掟破りのレシーブをしないでっ!

『そういえば、ヴィオレット。急用って何?』

 オレのブロックのこぼれ玉を、ネットをくぐって敵陣オレの陣地に来てまでグリシーヌがレシーブ。


 グリシーヌ、オレは信じてたよ!

 

『そ、そうです、お姉様』

 ヴィオレットがグリシーヌを振り返った。

『実は、前線の兵士の間で熱病が流行ってしまいましたの』

『え? 前線でも?』

『ということは、お城でも?』

『ええ。って、荷車の騎士様のお名前を知ってるのに、肝心なところは聞いてないの?』

『えっと』

 ヴィオレットが口ごもった。

『伝令から、荷車の騎士と魔獣フッフがお姉さまを、ってとこまで聞きましたの? それから伝令が何か言おうとしたけれど、ヴィオレット、お姉さまが心配で、急いで城へ……』

『もう、相変わらずヴィオレットはそそっかしいわね』

 グリシーヌが苦笑し、そしてオレたちを見た。

『港で買った薬草を城に届ける途中、荷馬車が壊れてしまって。で、それを助けてくれたのが荷車の騎士様とフッフなの』

『ま、まさか?』


 ヴィオレットが目を見開いてお兄ちゃんを見つめた。

 バカバカ!

 「まさか」って言いたいのはこっちだよ!


 グリシーヌめ、きっちり味方のバックアタックに回しやがった!

 策士め、許すまじ。


『それより、皆ひどいの?』

『はい、お姉様。とても戦える状態じゃなくて』

『そんなんじゃ、敵に殲滅されてしまうのでは?』

『それが、西の国の兵士たちも似たような状況みたいですの。本当なら、攻め入る最大のチャンスですのに……』

『そう、残念だし、心配ね』


 ちょっと違和感。


『ヴィオレット、それは本当か?』

 

 今まで空気だった王様が訊いた。


『はい、お父様。薬草はまだありますか?』

『いいや、昨夜荷車の騎士が運んでくれたものは、城内と農民たちのために使い切ってしまった』

『そうなんですの』


 ヴィオレットが肩を落とした。

『グリシーヌ。次に港に船が入るのはいつだ?』

『五日後です』

『むう』

『でも、お父様。ヴィオレット』


 グリシーヌが遠慮がちに言った。


『実は、昨日運んできた、というか、荷車の騎士様が運んでくださったのは、今回買い付けたうちの一部なの。全部は荷馬車に乗り切らなかったから、残りは港の倉庫にしまってあるんです』

『それは本当か!』

『ええ、昨日は私も慌てていて、すっかり忘れてたのですが』

『確かに、すぐに医者に回してしまったが、考えてみると少ないような』

 相変わらずの無能ぶりだね、おっさん。


『それじゃ、その薬草さえあれば、前線の兵士たちも助かって、弱った敵陣に攻めこめますの!』

 ヴィオレットが両手を合わせた。

 グリシーヌが目を伏せる。

『ええ、でも……』

 それから、お兄ちゃんをちらっと見た。

 

 グリシーヌ、またそうやってフラグ立てようとしてるね?

 妹のフラグがブロックされたら、今度は自分のフラグって、時間差攻撃のつもり?


 でもね、お兄ちゃんはそういう「チラ見」に気づくほど神経細やかじゃないから、期待しない方がいいよ?」


「ええと、港に残して来たという薬草の残りはどれくらいですか?」


 がーーーーーっ!

 こういうときに限って気づくし!

 オレが折っても蹴飛ばしてもフラグが立とうとするしっ!


『昨晩運んでくださった量の三倍ほどです』

 グリシーヌが少し頬を染めて答える。


 またもやしまった!

『俺知らねえから!』とか通訳しとけば良かった!


 ……でも、お兄ちゃんが薄情だと思われるも気分悪いし。


「それなら一回で積める。後は燃料だけど、行って帰ってくれば、今タンクにある分はほとんどなくなるけど、フッフ?」


 ……うん、行くよ。

 もしこれが最後の運行だとしても。


 だって、それがオレの大好きなお兄ちゃんだから。

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