第二十四便 勝手なもんだなんて言わないでっ!
『魔獣か妖精かはともかく』
王様が言った。
『まずは聞きたいが、そなたたちはどこから来たのか?』
「日本の長野県です」
お兄ちゃんが答える。
『ニホンのナガノケン』
ほら、該当する訳語がない。
「そこで事故が起きて、崖から落ちた、と思ったらあの場所、えーと、姫様に会った場所にいました」
『全く知らぬ地名だが、グリシーヌは聞いたことがあるか?』
『いいえ』
王様の問い掛けにグリシーヌが首を横に振った。
この辺りのボディーランゲージも日本と同じでわかりやすい。
『でも、そのようにご自身のおかれた状況もわからない場面で、見も知らずの私を助け、矢の雨の降る中、薬草を届けてくださったことは、本当に……』
だからメスの目で見るな!
そこの隣の王様!
あんたも父親だろ?
年端も行かない娘がどこの馬の骨かわからない、かなり年が離れたおっさんをそんな目で見てるんだから、もう少し怒るとか警戒するとか、やるべきことがあるだろーが!!
『うむ。まさしく騎士の中の騎士。世の父親なら、誰もが娘の夫に、と願うような御仁だ。薬草の件も含めて、あらためて心より感謝する』
おーーーーいっ!
日本だったら案件だぞっ!
何でそんなこと知ってるのかわからないけど。
で、でも、お兄ちゃんはそんなアホな話に乗らないもんね。
「いやあ、そうおおしゃっていただけると光栄です」
しまったぁ!
通訳しなきゃよかった!
「お、お兄ちゃん!」
オレは慌てて行った。
「この国じゃ、そうやって褒めるのは、『さっさと帰れ』って意味みたいだよ? 京都みたいに」
「京都に偏見持ち過ぎだよ。京都の工業団地にも何度も納品に行ってるけど、皆さんいい人たちだよ」
「そういうことじゃなくて!」
「それに、それがお世辞だろうと何だろうと、納品した相手に感謝されるのは、運送屋としては嬉しいことだよ」
あ、この人理解してない。
下手すると薬草だけじゃなく、小娘を死ぬまで運ばされる恐れがあるってこと。
「まあ、ともかく、戻れるものなら何とか戻りたい、と思っているのですが」
よしっ!
オレはまた懇切丁寧に通訳した。グリシーヌが露骨に残念そうな顔をして訊いて来た。
『それはどのあたりかわかりますか? 例えば、北とか、西とか』
「うーん」
お兄ちゃんが腕を組み、それからスマホを手にした。
「有料ナビソフトでダウンロードしておいた地図が入ってるはずですが」
そう言ってスマホに指を這わせようとした。
「ん?」
お兄ちゃんが変な顔をする。
「勝手に地図が表示されたけど、もしかして、フッフ?」
え?
そんなつもりはなかったけど。
「長野県を表示させてみて」
お兄ちゃんの頼みに、オレが長野を思い浮かべる。
「長野が拡大表示された。やっぱり、フッフはスマホのデータにもアクセスできるんだね」
本当みたいだ。
オレは見ることができないけど。
お兄ちゃんは、スマホをグリシーヌに見せた。
小娘の顔がアップになる。
まあ、可愛いと言えば可愛いけど。
『この箱の中には、何でも入ってるんですね』
そう言って彼女が、スマホ、じゃなくて、スマホを見せてるお兄ちゃんを見つめる。
おい、何惚けた顔してんだよ! これ、すごいのはお兄ちゃんじゃなくてスマホだからなっ!
お兄ちゃんが「すごいのは俺じゃなくて車やグラインダー」って言った時は、「そんなことないよ」とか思ったのに。
人間て、勝手なもんだね。
ま、オレは人間じゃないけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます