第二十五便 シリアス展開にならないでっ!
それはそうと、お兄ちゃんが地図を見せたけど、二人はひたすら不思議そうな顔をして地図を覗き込んでいるだけだった。
オレからしたら、二人の顔がドアップな状態。
王様はもちろん、グリシーヌだってそれだけ近づかれたら暑苦しい。
お兄ちゃんならいいけど。
結局、全くわからないみたい。
そもそも、日本語で書いてある地図見せること自体間違いだと思うけど。
それとも、スマホの多様過ぎる機能にビビってるのかも。
「それでは、この国の地図はありますか?」
お兄ちゃんがオレをまたぶら下げながら訊いた。王様が変な顔をしてグリシーヌと目を見合わせる。
「俺、何か変なこと言っちゃいましたか?」
『あ、いいえ』
グリシーヌが首を横に振る。
『ただ、この国では、地図はとても貴重で、なおかつ軍事的な事情から公開はしていないので』
「そうですか」
恩知らずな返事なのに、お兄ちゃんはあっさりしたものだ。
グリシーヌが頭を下げる。
『申し訳ありません。こればかりは、異国の方に安易にお見せするわけには……』
『恩知らず!』
オレは思わず叫んだ。
『この国の恩人だとかなんだとか言って、結局お兄ちゃんのこと何にも考えてくれてないじゃん!』
『フッフ、ごめんなさい』
グリシーヌが眉根を寄せた。
『申し訳ない、魔獣よ』
王様がため息をつく。
『ごめんなさいじゃないよ! 謝ったって……』
「フッフ!」
お兄ちゃんがオレ(の表示されてるスマホ)を手にもって正面から見つめた。
「何言ってるかわからないけど、何となくわかるよ。俺のことを思ってくれてるのかもしれないけど、あんまりそんな言い方するもんじゃないよ」
「あ」
お兄ちゃんに見つめられて、オレは口ごもった。
「あ、あの、ごめんね」
「いや、俺の方こそありがとう」
お兄ちゃんはオレに笑いかけ、それから言った。
「王様、姫様。よくわかりませんが、無理なら無理で構いません」
『あ、で、でも』
グリシーヌが顔を上げ、王様を見た。
『大体の地理を簡単に口頭でご説明することくらいなら…。ね、お父様?』
『うむ。他でもない、荷車の騎士の頼みだ。それに、もしかしたら本格的にご協力いただくかもしれないし』
もったいつけやがって。
ちょっとムカついたが、グリシーヌがこの〝島〟(ここは〝島〟らしい)の地理について説明し始めた。
この島は、少なくとも過去二百年くらいは東西南北の領土に分割されていた。グリシーヌたちの国は東の小国で、規模としては最も小さい。
ただ、土地自体は比較的豊かで、農作物も豊富。また、南東にはこの島で一番大きな港があり、ここを通じての定期的な交易で、農具や武器等が入手しやすいらしい。オレたちがグリシーヌと会ったのは、その途中の街道だ、ということだ。
国境は、西に七馬時くらいのところ、とのこと。もっとも、そんなに明確な線引きはなさそうだ。
そして、その向こうが西の大国。
西の大国とは、もともとそれほど友好ではなかったけれど、五十日くらい前、夏の終わりから戦争状態。
と言っても、国境付近の小競り合いが主で、ほとんどがにらみ合い。本格的に軍を派遣したのはここ五日くらい、とのことだった。
『小国故、若い男たちは、城を守るのに最低限の兵士たちを除いて前線に送った』
王様が補足する。
『西の国の兵力は強大だから、それでも足りず、若く健康な娘まで』
「戦闘は回避できないんですか?」
お兄ちゃんが訊いた。王様がしかめっ面をして、グリシーヌが首を横に振る。
『現在は膠着状態ですが、あと数日のうちには、確実に……』
「でも、戦闘が始まったら、双方の兵士の一部は確実に死んでしまいますよね?」
『ええ』
グリシーヌが頷く。
『でも、それが戦争ですから』
お兄ちゃんはしばらく押し黙ったままだった。
てか、オレが言うのも何だけど、軽トラが喋るような世界が、そんなシリアスなわけないよね?
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