第十七便  照れてたなんて言わないでっ!

 お兄ちゃんは運手席に仮眠スペースを作ると、横に(半分だけど)なった。


「ごめんね、お兄ちゃん、オレに付き合わせて」

「いや、この方が落ち着くよ」

「でも、足伸ばして寝ないと疲れとれないでしょ?」

「それは明日以降考えよう。エンジンや燃料のことも含めて」


 そうだ。

 結局、停止中もずっとエンジンをかけっぱなし。

 言葉の問題があるし、仕方ないって言えば仕方ないけど、アイドリング中だって燃料は減る。

 節約できるようにしないと。


「とりあえず今日はエンジンを切るよ」

「あ、うん」


 本当はもっとお兄ちゃんといろいろ話したいけど。

 何より、お兄ちゃんも寝なきゃだめだし。


 あの自称女神が言う通り、ここが地球と同じような環境だとすれば、どんなにかかっても後数時間で夜明けだ。下手をすれば一、二時間。とにかく、今はお兄ちゃんの健康を考えよう。


「そうだね」

 オレは何気なく言った。

「この国の英雄、荷車の騎士様にも、休息は必要だしね」

「まあ、それも燃料の持つ間だけだし」

 お兄ちゃんが笑った。

「そもそも、どれも俺の力じゃない。薬草を運んだのはフッフだし、グラインダーはホームセンターで買ったものだ。そもそも、どっちも俺たちの元の世界じゃ、当たり前に存在するものだ」

「で、でも、グリシーヌだってお兄ちゃんをうっとりして見てたよ。何か、すっごいいやらしい目で」


「そういうことを言うもんじゃないよ。今日は疲れてたんだよ、きっと。それに、フッフこそ、ミラーにキスされて照れてたじゃん」

「お、オレは別に!」

「まあ、いい子だよね、お姫様なのに。それに、王様もいい人そうだ」

「ま、まあね」


 お兄ちゃん基準だと、大体の人はいい人扱いだけど。


「でも、何だか違和感があるんだよね」


 お兄ちゃんが呟く。


「違和感?」

「うん。何ていうか、何かを忘れているような。でも、それが何だか思い出せない」

「そう」

「まあ、いいか。とにかく今日は寝よう。エンジンを切るから、フッフもお休み」

「あ、うん。お兄ちゃん」


 寂しいけど、仕方ないよ。


「今日はありがとう。フッフのおかげで、とりあえず何とかなったよ」


 お兄ちゃんがエンジンを切った。

 お兄ちゃんの言葉を反芻するオレを、闇がゆっくりと包んで行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る