第十六便 発情しないでっ!
オレたちはグリシーヌの案内する方向へとゆっくり向かった。
三速で軽くアクセルを踏みながら、お兄ちゃんがグリシーヌに「大丈夫ですか?」と訊いた。
『はい』
グリシーヌが答えた。
『魔獣フッフと、荷車の騎士様のおかげで』
「さっき王様にも言われましたが、俺、騎士ではないですよ」
『いいえ。この国の危機を救ってくださったあなたは、まさしく騎士です。それに』
あれ、何か変だ。
『紳士でいらっしゃいますし』
おい、グリ、じゃなくて野良メス(格下げ)! 明らかに声が発情してるじゃんか!
「その辺は何とも言えませんが。それに、俺は別に、フッフを従えているわけじゃありません。相棒ですから」
お兄ちゃん!!!!
『そういう謙虚なところも、とても……』
まだ青臭いガキのくせに、死ね!
ついつい通訳しちゃう自分が嫌だ。
と、野良メスがオレのダッシュボードを軽く撫でた。
『あなたも、荷車の騎士様にかわいがってもらって幸せね』
グリシーヌ、よく見たらきれいだね(今は見えてないけど)。
『あ、そこを右です』
グリシーヌの案内で、建物にそって右に曲がる。
途中で水桶や厠(あるんだ)も案内していた。
オレには関係ないけど、お兄ちゃんには大事だし。
「今更ですけど」
お兄ちゃんが訊いた。
「俺みたいな素性の知れない者、城内においていいんですか?」
『はい』
グリシーヌの声に迷いはないみたい。
『この国では、行動が人の判断材料になります。荷車の騎士様の行動は、全てにおいて信用に足るもの、というのが、この国の王であるお父様と私に共通する意見です』
「そうですか」
お兄ちゃんが笑った。
「何か、かえって怖いけど、まあ、それもとにかく明日、ということで」
そんなこんなで厩についた。
お兄ちゃんが助手席に回り、グリシーヌが降りる。
『今日は本当にありがとうございました』
グリシーヌがお兄ちゃんをじっと見つめる。
おい、誘惑しようったってそうはいかないからね。
お兄ちゃんはグリシーヌみたいな小娘に興味ないって。
「あ、いえ。それより、戻りは大丈夫ですか? さっきの場所までお送りしますか?」
お、お兄ちゃん?
『ご心配なく。こちらの』
グリシーヌが背後を振り返った。
『こちらの入り口も城内に通じていますから』
城を作った人、グッジョブ!
『ですから、荷車の騎士様も、いつでも城内にお越しくださいませ』
城を作った人、ファ○ク!
「あ、大丈夫です。行きませんから」
お兄ちゃん?
いや、嬉しいけど、あんまりあっさりとそれだと、グリシーヌがちょっとかわいそうな気も。
『クスクス。本当に紳士でいらっしゃるんですね』
「あ、多分、姫様くらいの年頃の子に慣れているんですよ」
お兄ちゃんの笑顔が、どこか寂しそうだ。
「とにかく今日は、ゆっくりお休みください」
扉を開けて、もう一度振り返ったグリシーヌにお兄ちゃんが言った。
「姫様こそ、国の人々にとってのヒーローですよ」
「いいえ」
グリシーヌが微笑み返した。
「荷車の騎士様こそヒーローです。国民にとっても、私にとっても」
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