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「おかえりなさい」と女の子。僕が入ってきたドアの反対側にはベランダに通じる窓がある。その窓を背にして、つまりこちらを向いて、その女の子は座っていた。「誰?」と僕。「忘れたの?」と女の子。「これ、面白いね。ずっと読んでた。リアルタイムで、起こったことも、何もかも書かれるんだね。ひとりでに動いて、ひたすら書いてる。私のことも書かれたから、てっきりあなたは覚えてるかと思ったけど」と続けた。「あ、今も書かれてる」と最後に付け加える。女の子が見ていたのは数十枚の原稿用紙。四百字詰めのものだ。その上を、シャープペンシルがずっと動いている。一定の動き。文字を書く動き。今のこの時間も、この状況も、この独白も、今までの過去話も、さっきまでの呆気なかった戦いも、全てこの中に書かれていっている。僕が今考えた言葉が、一字一句を違わずに、全て書き写されている。僕がそのようにセットしたからだ。なんとなく、書きたくなっ

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