第31話 インテグレイト

 カナレと女神さまが、お風呂に入っている間に俺はトーストと目玉焼きを3人分作った。

 スープはお湯を入れるだけで出来る粉末コーンスープだ。

 出来たところで、二人がお風呂から出て来る。

 女神さまは、バスタオルを頭に巻いてカナレのTシャツと短パンを着ている。

 全員が揃ったところで、食事にした。


「簡単な物で申し訳ありません」

「いえ、これが食事というものですね」

 女神さまは、箸がうまく使えないようだ。

 俺はスプーンを出してやった。

「あー、美味しい」

 女神さまは、トーストと目玉焼きを食べてご満悦のようだ。


「それで、女神さま、これからですが…」

「末永くよろしくお願いします」

「いえ、お嫁に来た訳じゃないですから…」

「その猫はこれから働きに行くのでしょう?私も一緒に行くわ」

「ええっ、だめです。お店に何と言うのです?」

「そうです、女神さま、あまり目立つ事は止めて下さい」

「いいじゃない、お店の方への説明は、あたなたちで勝手に考えて」

「「そんなの無理です」」

 俺とカナレが同時に言う。


 だが、女神さまは説得に応じる様子もなく、朝食が済んだら、もう出かけるつもりでいる。

 だが、服がない。

「女神さま、服がないです」

「その猫の服を借りるわ」

 カナレも今では世間の女の子並みに服は持っている。

「そう言えば。女神さまの下着は…」

「私が買っておいて、使ってなかったものがあったので、それを渡しました」

「でもね、ちょっと胸が苦しくて、その猫のブラジャーって物が合わないみたい」

「い、いいじゃないですか。女神さまに比べたら、貧乳ですよ」

 たしかに女神さまは巨乳だ。

「まあまあ、それはいいから。でも、カナレの服の寸法は合うのですか?」

「そこはどうにでもなるわ」

 女神さまがカナレの服を着ると、不思議と着る事が出来た。

「ね、そこの猫の服でも、どうにかなったでしょう」


「ところで、カナレにはちゃんと『カナレ』という名前があるのです。猫と呼ばないで下さい。外でそう呼ばれて正体がバレたら困ります」

「たしかにそうね。ではカナレでいいかしら。それであなたの事は何と呼べばいいのかしら?」

「ご主人さまです」

 カナレが答えた。

「分かったわ、ご主人さま」

「いや、女神さま、そう呼ばれる云われはないですから普通に『一さん』とかでいいですよ」

「あー」

「女神さま、どうしました?」

 顔を覆っていた女神さまがこちらを向いた。

「ご主人さま…」

「は、はあ?」

「ご主人さま、私は一生、ご主人さまの物です。よろしくお願いします」

「「ええー」」

「女神さま、何を言っているんですか?」

「あなたは、私の『ご主人さま』となりました。何でもお申しつけ下さい」


「だ、だめです。ご主人さまは私のご主人さまです。例え、女神さまと言ってもだめです」

「何を言っているのです。私はもうこの方の物です。あなたが入る余地はありません」

「だめです。だめです。ご主人さまは私のご主人さまです」

 いきなり、態度の変わった女神さまに戸惑うが、俺をご主人さまと呼んだことで、何か変化があったのではないか?

「では、ご主人さまに決めて貰いましょう」

「カナレの方だ」

 俺は即答した。


 女神さまは、顔を覆って泣き出した。

「ウエーン、エーン」

 女に泣かれると困る。どうしていいか分からない。

 俺とカナレは顔を見合わせた。

「あ、あの女神さま、カナレとはもう1年も一緒に居ますし、それにキスもした仲ですから」

 俺がそう言うと、女神さまはいきなり、俺にキスをしてきた。

 その行為に俺もカナレも対応できない。

 驚いている俺から離れると、

「これでその猫、いえ、カナレと立場は同じです。さあ、もう一度判断して下さい」

 と、言ってきた。

「あっ、いや、それでもカナレとは1年一緒でしたから…」

「では、カナレを猫に戻します」

「「ええっ、それはダメです」」

「女神さま、それだけは、私はもうご主人さまと離れて暮らすのは嫌です」

「それは、ご主人さまが私を選ばないからです。私を選べば丸く収まります」


 俺は頭を抱えた。

「もういっそ、二人が一緒になってくれれば…」

「ご主人さまがそう言うのであれば、そうしましよう」

 女神さまはそう言うと、カナレの中に入っていった。

「え、ええっ、カナレ、カナレ」

 ぼーっと、立っているカナレを揺するとカナレに正気が戻った。


「あら、これがカナレの中なのね。なかなかだわ。それではご主人さま、これで良いかしら。これからもよろしくお願いします」

「ええっ?女神さま?カナレは、カナレはどうしたんです?」

「カナレはここに居るわ。今は私って事ね」

「女神さま、ちょっと、待って下さい。これは私の身体なんですから」

 見ているとカナレの中で揉めているようだ。

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