第34回 元魔王、わが子を思い出す。

「『第一回 グラネ争奪 大クイズ大会』は、元魔王様とそのお仲間様の優勝です! おめでとうございます!」


 シリルの拍手に答えるように、私たちはまわりの木々に手を振る。


「待って、これでいいの? せっかくの大クイズ大会なんだぞ? こんなんで終わっていいのかい?」


 イトは、あれからずっと、そんなようなことを叫んでいる。

 よほど自分の正解をなかったことにしたいと見える。


「いいんです! 司会者である私が許可します!」


「ちょっと、グラネさん。

 お母さんはあんなこと言ってるけど、いいのかい?

 グラネさんも、なんか言ったほうがいいって。

 お母さんは、君を旅立たせたいがために、俺を正解にしたんだって。

 絶対にそうだって」


「おいおい、イトよ。シリルさんがそんなことするわけがないだろう? ねえ、シリルさん」


「ええ、そのとおりです。そのことは、グラネもわかっているはずです」


この場にいるみなが、グラネに視線を向ける。


「……わかってた……」


 グラネは、ようやくその重い口を開いた。


「……私も、ずっとわかってたの」


「そんなことないって。さっきの答えは、俺のただの独り言だって」


「私も……ここにずっとはいられないって、わかってた」


「あ、そっち?」


「お母さんの問題を聞いて、思い出したの。

 お母さんとお父さんは、昔から私に、外での暮らし方を教えてくれてた。

 魔族でも人間でもない私のために、魔族と人間の両方のことを、いっぱい教えてくれてた。

 いつかひとりで生きていかなければならなくなるって……そう言って、いつもあやまってくれてた。

 だから……なんでしょ?

 だからもし、私がこの人たちと旅に出ることができれば、ひとりにならなくてすむ……、だからお母さんは、私を……」



 私は、シリルとグラネを見ながら、現魔王である我が子のことを思い出していた。


 私はこれまで、魔王として、様々なことを決断し、実行してきた。

 それは、魔の国のためであり、魔の国に生きるすべてのもののためであった。


 もちろん、そこに我が子もふくまれていた。


 だから私は、我が子のためにも、できうるすべてを成してきたつもりだ。

 そして、私のすべてを、我が子に受け渡してきたつもりだ。


 少なくとも、私はそう思っていた。


 それでも不安に思うときはある。


 目の前のシリルとグラネのように、私と我が子は、しっかりと親子をやれていたのかどうか、と。


 しかし、そんなことを口に出せば、きっとイトはこう言ってくるのだろう。


 そんなものは「腹を割って話せばいいこと」だ、と。



 グラネは、ようやく力を抜いて、顔をあげた。


 目が少し腫れているようにも見えたが、そんな些細なことは、彼女の笑顔にかき消されてしまっていた。


「『第一回 グラネ争奪 大クイズ大会』は、私の負けよ。だから、元魔王様とそのお仲間様、どうか私のことを奪っていってちょうだい」


「もちろん、大切に奪わせていただきますとも」

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