第33回 元魔王、クイズ大会で優勝する。
「問題も残りわずかとなりました! はたして、勝利の栄冠を獲得するのはどちらになるのか! それでは、いきますよ!」
【問題】
グラネの父であり、私の夫であるあの人は、娘のなにを願っていたでしょうか?
「…………」
大クイズ大会も佳境に入り、だんだんと難しい問題も増えてきた。
さらに、シリルやグラネの家族に関係するような問題も、出題されるようになっていた。
それは、シリルの得意な料理だったり、グラネの好きなものだったり、家族の思い出の場所だったり。
家族の間で話し合われてきたのであろう、魔族の中で生き抜く方法だったり、人間社会にとけ込むためのあれこれだったり。
私たちにも答えられそうではあったが、グラネのために用意されたチャンス問題であるのは明白だった。
だというのに、当のグラネの表情は曇りがちで、一向にすぐれる気配がなかった。
「自分たちの日常を他人に知られたくない」という気持ちはわかる。
だが、今のグラネの表情からは、どうも
怒っているとも悲しんでいるとも言い切れない曖昧さを色濃くしながら、なにかに葛藤するようにうつむいている。
出題者であるシリルのほうも、そんな娘の様子をどこか寂しげにじっと見守り続けるだけだった。
そんなふたりの様子を感じとった私たちは、だから自然と、ふたりの動向を気にするようになり、早押しをひかえるようになっていた。
いわゆる「空気を読んで」いるのだった。
「でも、なんであんな顔してんだ? そんなに悩むほどの問題でもない気がするんだけど」
「簡単な問題だからこそ、答えにくいということもあるのだ。家族とはそういうものだろう?」
「そうか? 俺は妹にもそういう話するけどな。だってそういうのって、言わなきゃわからないだろ?」
「ほほう、さすがは勇者なだけはあるな」
「どこが『さすが』なんだ?」
「そこがだよ」
私の言葉に、イトは疑問の表情を返してきた。
しかし、私が詳しい説明をしないとみたのか、「ふぅん?」と適当な相づちをうって、それ以上はなにも聞いてこなかった。
「どうですか、わかりませんか? 締め切りますよ、5……4……3……2……1……0! 残念!」
回答時間が終わったというのに、グラネは脱力することもなく、さっきまでと変わらずに、どこか苦しそうな顔を続けていた。
シリルは、そんなグラネを見たからなのか、より一層、大きな声を出した。
「長く続いた大クイズ大会も、ついに最後のときがおとずれました! 名残惜しいですが、次が最終問題となります! 覚悟はよろしいですか?」
その呼びかけにも、グラネはなんの反応も示さない。
「最終問題の正解者には、な、なんと、二百点が与えられます! つまり、この最終問題に正解したほうが、この大クイズ大会の勝利者ということになります」
お約束ですからね、とシリルは、少しおちゃらけて言う。
「元魔王様方の回答者は、イトさんですね。それでは、グラネとイトさんの一騎打ち! みなさんも目を離さないでくださいね!」
【問題】
私シリルは、娘グラネに、これからどうなってほしいと願っているでしょうか?
「この問題は、特別に、ヒントを差し上げましょう! この問題の答えは、さっきの問題の答えと同じです! さあ、早押しですよ」
しかし、さっきと同じように、どちらもボタンを押そうとはしなかった。
答えたほうが勝ちであるため、グラネを待っている私たちに勝ち目はなかった。
そのことは、イトもわかっていた。
そして、わかっているからこそ、イトはボタンを押さないままに、口を開いた。
「……グラネさんもわかってるとは思うけど、家族なんだし、そりゃあ、幸せになってほしいんじゃねぇの?
俺も妹には、誰よりも幸せになってほしいしさ。
だからこうやって、したくもない旅をしてさ、こんなよくわからない森の中にまで来ちゃってんだからさ。
きっとシリルさんも、ずっとグラネさんと一緒にいたいはずなんだ。
でもそれだと、グラネさんは幸せにはなれないって、わかってるんだよ。
それに、これが今生の別れってわけでもないんだからさ。
幸せになって、それを報告に帰ってくればいいだけだろ?
俺も、早く旅を終わらせて、妹にみやげ話を聞かせてやるつもりなんだしさ」
イトの静かなつぶやきは、しかし、私やシリルの心にまで届き――
「……イトさん、正解!」
シリルが、静寂を破って、そんなことを言っていた。
「え、なんで? 俺は押してないぞ? 今のはただの独り言であって、答えじゃないんだって、正解じゃダメだって」
「いえ、それはもう答えそのものですから、だから正解!」
「さすが、私の見込んだ勇者だな」
「さっきも言ってたけど、俺のどこが『さすが』なんだよ。あれか、やっちまうところがってことか?」
「お前は勇者だ!」
「ごまかすんじゃないよ!」
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