第32回 元魔王、ダイジェストになる。
「出題者兼司会進行役をつとめます、シリルでございます、どうぞよろしく。
それでは、本クイズ大会の回答者のみなさんをご紹介しましょう!
まずは我が自慢の娘、グラネです!」
「ちょっとお母さん、恥ずかしいよ!」
「いいじゃない、娘の晴れ姿なんだから」
シリルは、恥ずかしがるグラネに、いたずらっぽい笑顔を返していた。
イトは、そんなふたりを見て、私に耳打ちをしてきた。
「ちょっと思ったんだけどさ、シリルさん、キャラ変わってないかい?」
「気のせいだろう?」
「でも、明らかに元気になってるというか、さっきよりも若く見えるというか、今のシリルさんは、とても娘さんに迷惑をかけるような
「久しぶりのクイズ大会ではしゃいでるだけだろう。ほら、先立たれたあの人との思い出だって、さっき言っていたばかりではないか」
「そうかなぁ……それにしてもなぁ……」
「そんなこと考えてないで、私たちの番がきたぞ」
「そして! そんな我が娘への挑戦者、元魔王様とそのお仲間様です。みなさま、盛大な拍手を!」
「ありがとう、どうもありがとう」
私は手を小さく振りながら、まわりの木々に向かって挨拶をしていく。
「それ……誰にやってんだ……? 誰もいない……よな? 少なくとも俺には見えない、すごく怖い!」
「いいから、イトもやるんだよ、ほら」
私は強引にイトの手を取り上げて、手を振らせる。
笑顔がとてもぎこちないが、許してやろう。
ユーキもコクドクも、私たちと同じように、それぞれのパフォーマンスをオーディエンスに向けて披露していた。
「誰も……いないけどな……」
イトは作り笑顔のまま、そんなことを言う。
目がまったく笑っていない。
その様子こそが、まさにホラーそのものだった。
「はい、ありがとうございます。
この大クイズ大会にエントリーしているのは、以上の五名となっております。
ですが、元魔王様とそのお仲間様は四人で一チームとしての参加となっておりますので、回答は交代制とし、コクドクさん、ユーキさん、イトさん、元魔王様の順で行っていただきます。
よろしいですか?」
「ああ、それでかまわない」
「ありがとうございます。それでは、早速まいりましょうか。第一問です!」
【問題】
魔の国で、今、空前の大ブームとなっているお菓子といえば、なんでしょう?
「早押し、どうぞ!」
その声に反応して、コクドクが回答ボタンを押した。
「はい、コクドクさん!」
「黒糖ふ菓子」
「正解!」
聞き馴染みのある正解音が盛大に鳴り響いた。
「へぇ、そんなもんがはやってんのか。サビレ村にもあったくらいだから、そりゃあ魔の国にもあるのか」
「いや、どうやら人間の国から持ち込まれたものらしいぞ。
経緯はわからないが、現魔王様がそれを食べて、いたく気に入ったそうでな。
その情報がまたたく間に広がって、魔の国中で人気になったのだそうだ」
「よく知っているな、コクドク。親である私が知らなかったというのに」
「職業柄、食べ物の情報は常に耳に入るようにしているもので」
これが料理人の鑑というものなのかもしれない。
「お母さん! ワタシがそんなのわかるわけないじゃない」
「でも、一緒に暮らしてる私は知ってたわよ?
これを機会に、グラネも外の世界に興味を持ったらいいんじゃない?」
「えー」
「そうだぞ、イト」
「えー」
「では、次に行きましょう。第二問!」
【問題】
現魔王様の配下には、人間がいる。マルかバツか。
この問題には、ユーキとグラネのふたりともが、回答ボタンを押した。
同時に押されたように見えたが、回答権を得たのはユーキだった。
「はい、ユーキさん」
「マル」
ユーキがそう言うのを聞いて、グラネは悔しそうな顔をした。
「正解です!」
「これは知ってたのに!」
「早押しもクイズの醍醐味なんだから、わかったからといって気を抜いてちゃダメよ」
「わかってる、次こそはワタシが正解するんだから」
「では、第三問!」
そんな調子で、第三問、第四問と問題は続いていった。
凹◎凹◎凹◎
私たちとグラネは、どちらかが正解を重ねれば、もう一方も正解を積み上げるという、まさに一進一退の攻防をくり広げていった。
そして大クイズ大会は、ついに大詰めをむかえる。
お互いに一歩も引かぬまま、残すはあと数問という局面に突入していた。
「おい待て、俺の回答をそんな一文で流すな」
「心配するな、主人公である私の回答も、すべてダイジェストだ」
「それでいいのか、それで……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます