第31回 元魔王、クイズ大会に参加する。
「なんでなにも言わなかったんだ? シリルとグラネの言う『魔王』ってのは、モタのことじゃないんだろ?」
私は、人間との戦争をやめた、初めての魔王なのだ。
そんな私が、戦争のために魔族を召集するなんてことを、するわけがなかった。
「そうだとしても、歴代の魔王がしたことに変わりはないからな。私は、そんな魔王の名を継いだのだ、
「だとしてもなぁ」
「イトの言いたいこともわかるぞ。だから私も、ただでそれを受けるつもりはない」
「じゃあ、どうするっていうんだ」
「決まっているではないか。この『第一回 グラネ争奪 大クイズ大会』で優勝するのだ!」
私たちは今、シリル家の前に設営された、巨大なクイズセットの、その回答者席に座っていた。
「こんなこともあろうかと」
そんなことを言いながら、シリルはどこからかクイズセット一式を引っ張り出してきたのだった。
「こんなことって、どんなことだよ!」とイトはこぼしていたが、私としては、今のこの状況は、彼女の言う「こんなこと」にふさわしい場面だと思っていた。
それに、こんなにも見事なセットなのだ。
これを目の前にして、そんな野暮なことを言うなんて、イトもわかっていない。
出題者席も回答者席も、それらが置かれている台も、後ろを飾る装飾の数々も、すべてが見事な完成度だった。
とてもひとりで作り上げたとは思えない代物だった。
そんなセットの一部分に、私たちは腰をかけているのだった。
「優勝するっていっても、回答者は俺たちとグラネだけなんだけどな」
「そう、つまり私は、彼女に勝って、彼女自身をこの手にしてやるのだ。
そして、ともに旅をしながら、彼女の
どうだ? いい案であろう?」
「なんだろう、ものすごく遠回りをしてるような気がするんだけど……。まあ、モタがそれでいいってんなら、いいんじゃないかい?」
「よし、そうと決まれば、イトも手を抜くでないぞ?」
「へいへい」
私たちは、グラネをかけた一大クイズ大会に挑もうとしていた。
対戦相手は、さきほどイトが言ったとおり、グラネだった。
なぜ私たちが、「こんなこと」をしているのかというと――
凹◎凹◎凹◎
「グラネを、みなさんの旅の仲間に加えてはいただけないでしょうか?」
「なに言ってるの、お母さん!」
シリルは、私たちに頭をさげていた。
それをグラネは、驚きの表情で見ていた。
「私とグラネはずっとふたりで、ここでこうして生きてきました。けれど、それも限界なんです」
「そんなことない! ここでずっと、ふたりで生きていけるよ!」
「それが無理なことは、グラネだってわかっているでしょう?
私も年を取ってしまって、昔みたいには動けなくなってしまったわ。
さっきだって、あなたに散々迷惑をかけたところじゃないの」
「迷惑だなんて思ってない! お母さんのことは、ワタシがしっかりと守っていけばいいの!」
「そんなことはしてほしくないわ。それにゆくゆくは、どうしたってあなたひとりになってしまうでしょ? そんなこと、この私が許せると思うの?」
「それは……」
「元魔王様、コクドクさんから外の様子はおうかがいしました。もう人間と魔族の戦争は終わったのですね。ならば、もうここにいる意味もなくなったようなものです」
「しかし世間には、いまだに人間と魔族の境界が存在しています。それを私は、この旅の中で痛感してきているところなのですよ」
「そうなのですか……ですが、ならばこそ、グラネをどうかご一緒させていただけませんでしょうか?
元魔王様方とともに、世の中のことを学ばせていただいて、あわよくばグラネを、安心して暮らせるような町や村まで、連れて行っていただきたいのです」
「だったらワタシは、お母さんと出ていく。お母さんとふたりで旅をしたい」
「さっきも言ったけど、もう旅なんてできる年でもないわ。
みなさんの足手まといになってしまうだけよ。
それにね、ここがどんなに隔離されたところでも、私にとっては大切な場所なのよ」
「それは……ワタシだって同じ……」
「そうね……でも、あなたにはあなただけの、もっとすてきな場所を見つけてほしいの。私とあの人が見つけられなかったような、人間と魔族が一緒に暮らせる場所を。そこにはきっと、あなたのような存在が必要になると思うの」
「私もそう思います。グラネさんは、まさに次の世代の希望ですよ」
ユーキもコクドクも、私と同意見のようで、強くうなずいていた。
「元魔王である私のほうこそ、グラネさんに、いろいろと教えていただきたいところです」
「でしたら」
「しかし、グラネさんのほうは、どうやら反対のようですね。私たちも、行きたくないものを無理やり連れて行くことはできません」
イトが「どの口が言ってんだ!」という顔でにらんできているが、身に覚えがないな!
「そこで、おふたりにご提案なのですが、なにか対決をして決める、というのはいかがでしょうか。
もし私が、その対決でグラネさんに勝つことができれば、グラネさんを連れて行く――もとい、連れ去っていく、ということで」
私の提案にシリルは賛成のようで、「どうなの?」という顔をグラネに向けた。
「……わかった、わかったわよ。戦えばいいんでしょ? それで勝てば、ワタシはお母さんとここに残れるのよね?」
絶対に勝つわ、とグラネは私をにらむ。
「決まりですね。あとは、その対決をなににするかですが」
「そこは、私におまかせください。私、こう見えても大のクイズ好きなんです。よくあの人とも遊んだものなんですよ?」
凹◎凹◎凹◎
その結果として出てきたものが、こんなにも豪華なクイズセットだったというわけだ。
「お母さん。くれぐれもワタシに不利な問題なんか出さないでよね」
「あら、心外ね。
私があの人との約束を破るわけがないじゃない。
あの人の残した『どんなクイズ大会だろうと、公正公平盛大に』っていう言葉は、今もこの胸に刻まれているわ。
これまで、一度たりとも、忘れたことがないんだから」
「どんな夫婦だったんだよ!」
「おいおい、イトよ、世の中にはいろんな夫婦の形があるものなんだぞ?」
「それは……どっちだ? 本気なのか? それともボケなのか?」
「それでは、始めましょう。『第一回 グラネ争奪 大クイズ大会』ここに開催です!」
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