第28回 元魔王、脱ぐ。

「すいませーん、どなたかいらっしゃいませんか?」


 そう家の中に声をかけたのは、ユーキだ。

 イトやコクドクでは人当たりが悪いだろうということで、ユーキに先陣をまかせたのだった


 コクドクには、念のため、森のほうの見回りをお願いした。

 ついでに、食べられそうなものがあれば集めてくるように、という命も下している。

 せめてもの手みやげにできるかもしれないと思ったからだ。


 そして、残った私とイトはというと――



「準備できたぞ」


 私は、イトに手荷物をまかせて、渾身こんしんの変装へととりかかっていた。


 今回の装いは自信作だ。

 だから、ちょっとばかり時間が必要だった。


 イトには、その間の私の護衛ごえいをお願いしていた。


「へいへい、今回はどんなぁあああ!?」


 その変装が終わり、今こうして、イトにまっさきに、その成果を披露ひろうしていたのだった。


「どうだ?」


「どうだじゃねぇだろ! そんな堂々とすんな!」


「なぜだ? 見事な変装ではないか」


「見事な変装もなにも……お前、なにも着てねぇじゃねぇかよ!」



 確かに、私は今、生まれたままの姿をさらけ出している。



 だがしかし、しっかりと変装はしているのだ。


 このように、黄色い塗料で、全身をきれいにコーティングしている。


 しかも、ただ塗っただけではない。


 胸にはしっかりとMOちゃんの目があり、下腹部にはしっかりとMOちゃんの口がある。そして、自分の手足は、そのままMOちゃんの手足に見立てている。


 いわゆるボディペインティングというものだった。



 残った頭はどうしているのかというと、なにかで隠すわけにはいかず、とりあえず黄色く塗ったままにしていた。


 イトは、もしかしたらそのことがお気に召さなかったのかもしれない。


「そうじゃねぇって!

 そういう問題じゃねぇって!

 人様の前に出ていい格好じゃねぇんだって!

 逆に、人様の前に出しちゃいけないもんが出てるんだって!」


「いいからよく見てみろ、この色合い、素晴らしいではないか。

 この色を出すために、相当な苦労をしたのだぞ?

 MOちゃんのあの色を再現しなければならなかったのだからな。

 それに、やはり地肌に塗るものだから、肌荒れを起こさないように気を配らなければならなかったし。

 どうだ? イトもやってみるか?」


「いいから!

 わかったから!

 早く服を……じゃなくていい、もうこの着ぐるみでいいから早く着ろ!

 早く隠せ!」


 イトはそう言って、私にMOちゃんの着ぐるみを、無理やり着せてきた。


「なにをするんだ!

 着ぐるみだと動きにくいのだぞ!

 イトも、前に扉に引っかかってしまったところを見たではないか。

 そのあとに用意した簡易MOちゃんも、なぜか不評だったから、こうしてさらなる改良を加えたのではないか」


 簡易を越えて、究極へと到達したMOちゃんは、まさに『真MOちゃん』と呼ぶにふさわしい出来映えになったと自負している。


「もしかして、それも妹と……?」


「残念ながら、ニニとは話ができなかったのだ。もしできていれば、もっと簡単に、もっとクオリティを高めたペインティングができたというのに……」


 もしニニと話を詰めることができていたならば、究極のその先にまで行けていたのかもしれない。


 そう悔しがる私を尻目に、イトはなぜか、ほっと胸をなで下ろしていた。


 許しがたい。


「許してもらわなくてもいいから、とりあえずその着ぐるみでいこう、な、頼むから、このとおりだから」


 しかたない。


 勇者がそこまでするのなら、ここは言うとおりにしておこうか。

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