第27回 元魔王、迷子になる。
私たちは『人魔の壁』をこえてからも、今までと変わらずに、平和な旅を続けている――はずだった。
「俺の勘違いだったらいいんだけど、だんだんと森の奥のほうに進んでいってないかい?」
「そうだねぇ」
「もしかして、この森を抜けた先に魔王城があるのかい?」
「かもねぇ」
「このまま行けば、森は抜けられるのかい?」
「さあてねぇ」
「俺の村に来たときも、ここを抜けてきたのかい?」
「どうだかねぇ」
「おい! ちゃんと言え! あれだろ、迷ったんだろ!」
私たちは、確かに魔王城へと近づいていた。
しかし、ちょっとした事件に遭遇してしまい、こうして森へと続く道を選ばざるをえなくなってしまったのだった。
「嘘をつくな。お前が『こっちのほうが近いから』って、強引に進んで行っちゃっただけだろ」
「近かったのは確かなんだぞ」
「そうだったとしても、迷ったらダメだろ」
「そうだねぇ、かえって遠回りになってしまったねぇ」
「もしかして、あれじゃない?
俺たちもう、このまま死ぬんじゃない?
前を見ても後ろを見ても、どこまでも森が続いてるし、俺たち以外に人っ子一人見かけないし、魔物の影すらないんだぞ?」
「まあまあイトよ、あわててもしかたなかろう?
このまま行けるところまで行こうじゃないか。
なにかが通ったあとは残ってるんだ、どこかには通じているはずさ」
「そうかねぇ……」
「大丈夫だって。このまま抜けられれば、普通に向かうのと同じくらいでは着けるからさ」
「それは……さすが近道だねぇ……」
凹◎凹◎凹◎
背の高い木々によって隠されたそこは、まさに砂漠にあらわれたオアシスだった。
しかしもちろん、そこにはヤシの木や湖などはなかった。
代わりにそこにあったのは、木で作られた一軒の小さな小屋だけだった。
「ここは……?」
「ほほう、こんなところに家があるとはな」
この森は、通称『くらましの森』と呼ばれている森だった。
森に入ったものを文字通り隠してしまい、二度と見つからないようにしてしまう、まさに魔法が渦巻いている森なのだ。
見つけようとしたものは絶対に見つからない。
そんな場所だった。
だから出口を探していた私たちは、必然的に、このような場所に導かれてしまったのだった。
「おい待て。そう呼ばれてるのを知ってたんなら、なんでこんな森に入ったんだよ」
「私がいれば大丈夫だと思ったんだがなぁ。
なぜなら私は、元魔王、なのだからな。
きっと、私以外の誰かのせいだろうなぁ。
なあ、イト」
「俺か? 俺のせいだってか?」
「早く森を抜けたいと言っていたではないか。誰よりもイトが、出口を求めていたはずだぞ?」
「それは……そうだけど。そういうことは先に教えといてくれよ、じゃないと絶対探しちゃうだろ」
「まあまあ、私たちは別に急いでいるわけではないのだから、なにも問題はない。
それに、私ですら知らなかった場所に、こうしておとずれることができたのだ、むしろ誇るべきところだぞ?」
「へいへい」
木漏れ日に照らされた家からは、なにものかが息づく気配を感じられた。
きっと、誰かが住んでいるのだろう。
「とりあえず、あの家のものに助けを求めてみようではないか」
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