第31話 初めまして……なのか
「ナギサ、ナータがみんなを呼んでいるよ。僕たち、今からナータに会えるんだよ」
井上たちが町を去り、渚沙がホテルからナータの聖地に移動して来た初日の午前十一時。構内にある宿泊施設のあてがわれた個人部屋で一息ついていると、西洋人の男性が英語で声をかけてきた。長身で美人の女性が彼の隣で微笑んでいる。二人共三十代半ばに見える。なかなかの美男美女で、恋人同士か夫婦らしい。一緒においでよといってくれたので渚沙は彼らの後について行った。
ナータに会えるのは夕方の聖歌の時間だけだと思っていたが、そうではないようだ。寺院が解放されているのは朝夕の聖歌の時間だけで、それ以外の時間は門が施錠されている。おそらく井上も知らない、寺院に泊まっている者だけが体験できる特別な機会なのではないか。
ゲートの近くにある売店の隣にはオフィスがある。二人はそこへ渚沙を案内してくれた。売店は聖歌の時間にはいつも開いていたので井上たちと一緒に入ったことがあるが、オフィスに入るのは初めてだ。
オフィスの床にはナータと五、六人の西洋人が座っていた。トラタ共和国では床に『はんか
「ナギサだね――」
ナータは親しみのある笑顔を渚沙に向けた。
あんなにも遠かった異国の生き神シャンタムが、ナータの姿で自分の名前を呼んでくれたことにちょっと感動してしまった。ナータは何か話し続けていたが頭に入ってこなかった。
みんな、ナータの前でとても寛いでいる。渚沙も少しも違和感なくその場にすぐに
渚沙は最初から無防備でナータを受け入れていた。緊張ひとつしない。家族や友人に会っているような感覚で、初めて会った気がしないのだ。もちろん、分身のシャンタムには会っているが、こんなに身近に、非公式な場で接したことはなかったので比較はできなかった。
聖ナータの寺院に泊まっている外国人は二十人くらいの男女で、何故かドイツ人ばかりだ。年齢は二十代から七十代。家族や恋人同士、個人で休暇を利用している滞在者がほとんどで、四十代以上の永住者が四人いた。
聖ナータの寺院にいるのは、日本人では渚沙だけだ。言葉もほとんど通じないのにいささかの不安も感じないのは、親切な人が多いからだろう。基本的にトラタ共和国の人は親しみやすい性質で、町中でもどこでも声をかけてくれるのですぐに仲良くなれる。寺院の中に住んでいる現地人は、ナータの妹の家族と、弟の家族。そして、二人の側近とその家族だけだ。みんな信頼できて困っていることがあると助けてくれる。右も左もわからない外国人にとっては頼り甲斐のあるありがたい存在だ。
渚沙は、ドイツ人たちにも心から気を許して、接することができた。昔から日本人とドイツ人は相性がいいと聞くが、それを初日から実感していた。
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