エピローグ
夏の終わりを知らせるように、風が涼しくなった午後。
蓮の家のリビングでは、テレビがつけっぱなしになっていた。窓から差し込む西日が、蓮の頬を優しく照らす。ニュース番組の女性キャスターが厳しい表情でマイクを握っていた。
「この度、警察庁の発表により、聖市郊外にある廃病院の地下施設にて、違法な人体実験及び武装組織による暗殺計画が行われていた事実が明るみに出ました」
画面が切り替わり、焦げ跡が残る廃病院の映像が映る。
「NWPと名乗るこの組織は、長年に渡り国内外の闇社会と繋がりを持ち、特殊な薬物、強化兵士の開発を進めていたとされます。首謀者とされる人物、灰島耕作(コーサカ)は既に死亡が確認されており、現在生存していた関係者の拘束と情報収集が進められています」
映像の中で、無言で護送させる白衣の男女。混乱の中で浮かび上がる真実。
蓮はソファに腰掛けながら、黙ってそれを見つめていた。隣では麗が紅茶を啜っている。
「怖いわね……こんな時代になるなんて」
言葉には憂いが混じっていたが、どこか現実味が薄く、遠い世界の出来事のようでもあった。蓮は目を細めて頷いた。
「……でも、終わったんだよ、全部」
テレビの中で再びキャスターの声が響く。
「なお、今回の一連の事件において、詳細な経緯については今後慎重に捜査されるとの事です――次のニュースです」
夕暮れが、静かにリビングを包んでいた。風鈴が、一度だけ涼し気に鳴った。
夕暮れの中、那瑠はベッドに横たわっていた。逹は傍の机で那瑠の課題を写している。那瑠はそっと目を閉じる。
胸の奥を、まだ消え切らない痛みが掠める。
――私は、人を殺して生きてきた。
たくさんの物を壊して、奪って、それでも尚生き残ってしまった。
赦されるとは思っていない。
償えるとも思っていない。
だけど、誰かのために生きる事は出来る。この手がもう一度誰かを守るために使えるのなら。
そう思える今の私を、少しだけ誇りに思う。
那瑠は窓の外を見た。澄んだ夕陽に染まる空。飛行機雲が一本、真っ直ぐに伸びている。
――生まれてきた意味何て、ずっと分からなかった。
でも今は、少しだけ分かる気がする。
私は、ここにいていい、と思える場所を見付けたんだ。
静かに目を開くと、逹が不思議そうにこちらを見ていた。那瑠は小さく首を振り、何もないよと微笑む。
蝉の声がじりじりと響いていた。
夏はまだ終わってはいない。
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