「あの、私は朝野ですから!下の名前で呼ばないで下さい!」


「そっ?ごめんな。雫ちゃん」


「はっ……?」


 意味わかんない!

 日本語が通じないの?

 それとも私に対する嫌がらせ?


「ほら、保、看護師さんは忙しいんだから。からかってないで着替えなよ。一人で脱げないなら、私が手伝おっか?」


 真新しいパジャマを紙袋から出しながら、彼女は笑った。ちょっとエロい、妖艶な笑みだ。


「そう?怜子が手伝ってくれんの?俺、右手使えねぇし。パンツも脱がしてくれんの?ハハッ、悪いな」


「いいよ。ほら、ダサい病院の寝間着なんてさっさと脱いじゃいなさい」


 何?あの態度。

 ダサい寝間着で悪かったわね。

 確かに……、病院の寝間着はダサいけど。


 あー!イライラする。

 ほんの一瞬でもカッコイイと思ったなんて、今すぐ取り消しだ。


 あいつは、

 こんな男にキスされたなんて、考えただけで悔しい。


 上半身裸でニヤニヤしている彼を睨みつつ、病室を出る。


 ベッドの上で、吾郎が申し訳なさそうに両手を合わせた。


「ごめんね。雫ちゃん」


「あ、さ、の、ですっ!」


 私は思わず大声で怒鳴り、病室のドアを閉めた。


 患者さんからいつも下の名前で呼ばれてる私。吾郎は悪くないのに、彼と彼女のイチャイチャしている姿が癪に障り、思わず八つ当たりしてしまった。


 夜勤あけで疲れてるのに、最悪だよ。


 一週間も、あいつが入院してるなんて?


 、ありえない。

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