「保~!大丈夫~?」


 彼女は窓際にいた私を払い退けると、彼に走り寄る。私は不意に突き飛ばされ思わずよろけた。


 すっかり忘れてたよ、彼女の存在。


「よう、怜子。来てくれたんだ。これ処分しといて」


 彼は昨夜着ていた服を彼女に差し出す。


「うん。保、これ私がプレゼントした服だよね?破れてんじゃん。やだ、これ高かったのよ」


「ごめん、ごめん。昨日火災現場と遭遇しちまってさ。また買ってくれよな」


 女性に高級ブランドの服をねだるなんて、こいつは彼女のヒモか。


 彼は私の方に視線を向けると、ニッと笑った。


 嫌な奴だが、その顔がなんだか可愛く思えた。


 きっと私、夜勤明けで感覚がおかしくなってるんだ。


 彼に見つめられると、昨夜のキスを思い出し鼓動がドキドキしてくる。


 私、何で意識してんの。


 彼女がいながら私にキスをした、サイテーな男なのに……。


「じゃあ、私はこれで失礼します」


「え?入院の説明するんじゃねぇの?」


「いや……それは、あとで他の看護師が来ますから」


「そっか?君が良かったのにな。し、ず、く、ちゃん」


「し、し、しずくちゃん!?」


「だってさ、ほら隣の坊やもおじいちゃん達もそう呼んでるだろ?」


「はっ?」


 私は思わず吾郎を見る。

 吾郎はにきびのある顔をしかめ、申し訳なさそうに、頭をポリポリ掻いた。


 ……まったく、話にならない。

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