第38話 氷塊の鎧
「さあて、ちゃっちゃと始めますか。先ずは外窓を閉めて」
シャリアさんの命令で外窓……雨戸というのか……それがパタンと閉まった。
「ええ?」
「さっきね。フィオーレの鍵の話があったでしょ。もしかしてって思って調べてみたら、窓やドアの開閉と施錠は遠隔操作できるようになってたの」
「本当に?」
「本当。我が妹ながら、フィオーレちゃんはやっぱりできる子だったのよ」
フィオーレさんは確かにすごいな。この老人、エドラを守るためなんだろうが、手が込んでいるぞ。
「でもね。多くの兵士が攻めて来たら扉はいずれ破られる。だったら破られないように補強すればいい」
「補強って?」
「氷の壁を作ります。この氷はちょっとやそっとじゃ融けないんだから」
え?
今なんて言ったの? 氷の壁って何?
「さあ、氷の精スフィーダ様。シャリアのお願いを聞いてください。この塔を貴方の氷で覆って。ねっ」
……わかったわ……凍えないようにね……
冷たい風がビュンと吹きすさび、外窓が一気に白くなった。凍り付いたみたいだ。
そして、この部屋の入り口であるドアも白く凍り付いてしまう。
「ちょっと失礼して、服着ますね。いい作業服があって良かった」
下着姿のイチゴ……いや、シャリアさんが服を着てしまうのはもったいない気がするのだが、そんな事は言っていられない。俺は彼女が脱いだまだ温かいジャージを着て、その上から毛皮の分厚いコートを羽織った。そして毛皮の帽子もかぶる。
エリザも分厚い防寒コートを羽織ってから、火鉢の中に木炭をガラガラと放り込んでいた。そして右手の人差し指から眩い火花を飛ばして木炭に着火させた。真っ黒な炭は途端に赤々と輝き出して淡い炎を揺らめかせる。これだと汗が出るくらい熱くなるかもって思ったのだが、そうでもなかった。窓やドアだけでなく、床や壁までも白く凍り付き始めたのだ。結構寒くなった。
「あはは。スフィーダ様はお久しぶりの召喚だったから張り切っちゃってるわね。凍らせるのは北の塔だけでいいって言ったのに、お城全体を氷漬けにしちゃいそうな勢いよ。うふふ」
「もう。調子に乗りすぎじゃないかしら。あの、氷人形は」
ぶつくさと文句を言うエリザの頭の上に、ピンポン玉くらいの小さな氷塊が出現し、落ちた。
「あ痛あ! 冷たあ! 氷人形の奴、生意気い!」
すると今度は小さな氷塊が十数個ほど空中に現れてからエリザの頭の上に落ちた。
「嫌だ。もう、いい加減にしなさいって」
……お前……いい加減に……しろ……
「いい加減にするのはあなたの方よ。この氷人形」
……黙れ……虎娘……
姿は見えないのだが、エリザが氷人形と呼んでいるのは、シャリアさんがスフィーダ様と呼ぶ氷の精の事だろう。実に仲良しな感じを醸し出しているのは何だか和んでしまう。
「私はエリザ。エリザベス・スタウト。虎娘とかじゃなくてっちゃんと名前で呼びなさい」
……それなら……お前も……私の事……を……スフィーダ様……と……呼べ……
「アンタが先。私は様をつけなくてもいいから、ちゃんと〝ちゃん〟付けてエリザちゃんって呼びなさい」
……誰が……お前など……に……ちゃん……など……つける……ものか……
「もう、氷人形なのに生意気!」
……いや……お前……の……方が……生意気……だ……
振出しに戻ったのか?
まるで子供の喧嘩だ。
「はい、そこまで。今回はエリザの方が先にちょっかいをかけたわね」
「え? そうかな?」
「そうです。調子に乗りすぎって言いました」
「ううう」
「そうですね。壮太君」
俺に振るなよ。しかし、ここは華麗にスルーする事などできない。
「はい。エリザの方が先に文句を言いました」
「ううう。壮太……覚えてろよ」
「はいはい。もうお終い。エリザはスフィーダ様に謝ってちょうだい」
「わかりました。スフィーダ様。ごめんなさい。私が言いすぎました」
……謝罪……は……受け取った……以後……言葉に……気を付ける……ように……
「はい」
ペコリと頭を下げるエリザだった。
「ところでスフィーダ様。外の様子はどうなのでしょうか?」
……今の所……この塔は……包囲……されつつ……ある……地下牢……から……逃亡……した……事に……疑問……を……持っている……更に……この塔に……侵入した……事に……驚愕……している……
「でしょうね。時間は稼げそう?」
……私の……氷塊……は……三日……三晩……融けない……が……
「が?」
……地下……の……ルート……より……侵入……された……場合……は……無効……だ……扉……は……凍らせてある……が……氷塊……は……薄い……
「地下のルートがあるの?」
……城……の……地下……と……繋がって……いる……隠し……通路……が……ある……
「そうなのね。彼らがそれに気づくまではどのくらいかな?」
……わから……ない……自分……で……判断……し……ろ……
冷たい奴だと思った。まあ、相手は氷の精だから冷たくても当然か。
すると突然、空中に薄い氷の板が現出した。そこには外の様子が映し出されていた。しかも音声付で。
……サービス……だ……有難く……受け……取れ……
そういう事らしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます