第39話 塔の外
液晶ディスプレイのような薄い氷のモニターが外の様子を映し出している。まるで誰かがカメラを抱えて撮影しているかのような映像だ。しかも、音声までちゃんと拾っているのだから驚いてしまった。
氷の精のスフィーダ様って、実は精霊界でも位の高い存在なのではなかろうか。そんな偉い存在と気軽に喧嘩をしてしまうエリザって、一体何者なのだろうか。まさか精霊とか神様の一人……獣人の神様とか……いや、違うと思いたい。
『カリア。一体どうなっているのだ』
『私に聞かれても困るわね』
『どうしてあの地下室から逃げおおせたのだ。魔法使い専用の手錠を使っていたはずだろうが』
『あの手錠は強力な回復魔法で壊せる。そっち系の魔法使いがいたんじゃないの? エイリアスには回復魔法の使い手が多いからね』
『そんな上位の魔法使いがいるはずがない。あそこにいたのは虎娘と異世界の青年とイチゴ姫だけだ』
『魔女がいたんじゃないの? シャリア・メセラが』
『あの女はいない。行方不明なのだ』
『でも、回復魔法が得意な高位の魔法使いがいたことは確かよ。そうじゃないとダブラの手錠は砕けない』
『わかった。我々が知らない第三者が、回復魔法の使い手があいつらを救出したんだ。ではどうしてこの塔に侵入しているんだ。ここはフィオーレの鍵がかかっているのだから、お前以外は出入りできない。そうではなかったのか?』
『そうね。フィオーレの鍵を解除できるのは私か、あの淫猥の魔女シャリアだけ』
『それはつまり、あの女がここにいたと?』
『そうとしか考えられないわね』
『いや、それは有り得ない。ここにいたのはイチゴ姫と虎娘、そして異世界の青年だけだ』
『確かにそうだった。でもね。別の可能性があるわ。一つだけね』
『それは何だ。どんな可能性だ』
『淫猥の魔女が変化の魔法を使っていた』
『まさか。あのイチゴ姫が偽物だったというのか?』
『そうね。探知魔法では本人と判定してたけど違ってたって事なんでしょ』
『そんな事はありうるのか?』
『あるんでしょうね。私は初めての経験だけど、高位の魔法使いならオーラさえもそっくりに模倣するって話だから、探知魔法を欺く事もできるかもね』
これは不味いかもしれない。シャリアさんがイチゴに変化している可能性が指摘され始めた。
カリアとラウルが言い合っているところで聖騎士団の男が割り込んできた。こいつは確か、クロード・ヘクトルって名前だった。
『イチゴ姫が偽物だって』
『いや、まだ可能性の話をしているだけだ』
『可能性だと? だったら俺はどうなるんだ? 王都から丸一日ずっと追い続けていたイチゴ姫が偽物だと?』
『お前の事など知らん。仮にあのイチゴ姫が偽物であったとしたら、お前たち聖騎士団は王都にて既に騙されていた事になるな』
『何だと?』
『おい。八つ当たりはよせ。お前のミスで俺も迷惑を被った事になるしな』
『うるさい。ところで連中はこの中にいるのか? 既に氷に覆われているじゃないか』
『本当に、この塔の中にいるのかどうかわからない。塔の周囲をこんな分厚い氷で覆うなど、並の魔法使いにはできない芸当だ』
『そうだろうな。で、どうするんだ』
『どうするもこうするもない。こじ開けて捕まえるしかない』
『俺にやらせろ。連中がこの中にいる確証はないが、他の場所にいる可能性はもっと低い。イチゴ姫らしき人物はこの中にいる。本物かもしれんし偽物かもしれんが、それは捕まえて確認するしかない。もし偽物なら、俺たちを騙したエイリアスの魔法使いに制裁を加えねばならん』
『いいのか? エイリアスはお前たち聖騎士団の医療部門を受け持っているんじゃないのか?』
『関係ない。連中は姫を略取した反逆者だ。制裁するのは当然だろう』『では条件を確認しよう。イチゴ姫が本物だった場合はこのリドワーン城で保護する。お前たち聖騎士団が姫の護衛を受け持つ』
『ああ』
『偽物だった場合は聖騎士団に引き渡す。好きに処分しろ』
『それでいい』
クロードは腰に吊るしていた長剣を引き抜いた。柄の部分にバラと十字の図案……聖騎士団の紋章らしい……の入った宝剣だという。
その大そうな剣をゆっくりと縦と横に振る。すると、大きな光の十字が空中に浮かんだ。クロードはその宝剣を上段に構えてから一気に振り下ろすと物凄い勢いで光の十字が氷の壁に衝突した。
ドカン! と大仰な音が響くものの、振動は殆ど感じられず何か壊れたような気配も無かった。
『くそう。何て頑丈な氷塊だ』
『どうした? 聖騎士団筆頭のクロード様?』
『うるさい。必ずぶっ壊してやるから其処で見てな』
その後数度、クロードは光のエネルギーをぶつける技を幾つか披露し攻撃してきたのだが、大きな爆発音を出しただけで何も破壊できていなかった。
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