第26話 アーディアスのリドワーン城
向こう岸ではちょっとした騒ぎになっていた。俺たちを追っていた兵士たち、といっても正規軍ではなく傭兵なのだが、そいつらと橋を守っている正規軍との間に小競り合いが始まったみたいだ。
エリザは10メートル以上ある橋げた、をまるで足場でもあるようにするするとてっぺんまで登って向こう側の様子をうかがっていた。
「あれれ、私たちを追って来た傭兵団だね」
「良かったわ。武装兵の集団は許可なく橋を渡れませんからね。実は聖騎士団だって言えないもの」
「あ、王立軍は厳しいね」
『盗賊を追ってる。橋を降ろせ』
『馬鹿者。盗賊の情報など何も聞いておらんし、それらしき人物も橋を渡っていない』
『さっき、エイリアス魔法協会の人間が通っただろう。そいつらは盗賊が化けていたんだよ』
『アレは正真正銘の魔法使いだ! お前は虎娘のエリザベスを知らんのか? 彼女は回復魔法の名手だぞ。我ら王立軍は何度も救われておるのだ』
『後二人いただろう。そいつらが盗賊なんだよ』
『お前は本当に馬鹿だな。あの黒い馬を知らんのか。漆黒の旋風と言われている
「なんて言ってるよ。ザーフィルは人気者だよね」
「お前もだ。エリザベス」
エリザは向こう岸の喧騒の中から、会話を拾い出して教えてくれている。聴力が優れているのはもちろんなんだが、何か魔法でも使っているのかってくらいに正確だ。エリザの容姿はこの国でも目立つと思っていたのだが、案外有名人で人望もあるらしい。そしてザーフィルだ。馬なのに普通に喋っているし、話す内容は何でもごもっともだし、正直な話、俺よりは断然大人だと思っていた。
「エリザ、降りて来て。先を急ぎましょう」
「わかったあ!」
エリザは10メートル以上ありそうな橋げたの上からふわりと飛び降りて来た。そして素早く灰色の鳥シファーに跨る。
「さあ出発だ!!」
と、声を張り上げたエリザだったが、シファーは立ち止まったまま首をかしげている。
「何処に行くの? 本当にラグナリアまで行くの? あそこ、ちょっと怖いんだけど」
シファーはどうやら竜神の国ラグナリアへは行きたくないらしい。まあ、気持は分かる気がする。あの国は竜神……ドラゴンだけでなくて……鬼とか魔物みたいな種族もいるという話だから……まあ、俺も怖いかな。
「ラグナリアまでは行きませんよ。シファーさん、ご安心なさい」
「ああ、良かった。じゃあどこに?」
「あそこへ」
シャリアさんが指さす方向……概ね東北東だと思うのだが、そっちにはちょっと低めの山が幾つか見えていた。そこまでは畑が広がっていてその中に民家などが点在する田園風景が連なっている。超のどかである。
「アーディアス山地ね。わかったわ」
全身をブルブルと震わせてから、灰色の鳥シファーが颯爽と駆けだした。そしてその後を黒い神馬ザーフィルが追う。
「ところでシャリア。アーディアスの何処に行くんだ? 一番奥の炭鉱まで行くのなら三日はかかるぞ?」
「そこまでは行かないわ。山地の入り口にあるリドワーン城へ向かいます」
「なるほど。それなら夕方までにはたどり着けるな。それに、城の戦力も当てにできる」
「そうね」
そういう事らしい。何日も馬の背に揺られるかもしれないと不安になっていたのだが、夕方までに到着できると聞いて少し安心した。
「あの、リドワーン城ってどんなところなんですか?」
「あそこはね、由緒正しい城塞都市なの。あの奥には石炭を産出する鉱山もあるし、鉄も取れるのよ。また林業も盛んなの。木材を生産して王都周辺に出荷している。料理用の木炭もアーディアス産の物は香りが良くて重宝されています」
「ああ、それらの生産物の中継地になっているんですね」
「そうね。特にリドワーンで生産されている刀剣は品質が高くて有名なの。武器生産の拠点になっています。また、100年前の勇者戦争の時にも、王族の避難場所としても重用されましたし、アーディアスの騎士とラグナリアの連合部隊が最終的に敵を撃破したのです」
「なるほど。過去に英雄が集ったお城なんですね」
「そうですね。でも、もう一つ重要な理由があるのです」
「それは何なんですか?」
「現城主が私の婚約者なの」
これはシャリアさんの重大なのろけだ。俺はリア充は爆発してしまえ! っと叫びそうになったのを必死でこらえる。まあ、魔法使いで医師でもある立派な女性だ。ちょっとした貴族とか領主とか、そんな人と約束された将来があっても不思議ではない。しかし、そんな話をしながらも彼女の巨乳は俺の背に押し付けられ、それが神馬ザーフィルの背で揺られているのだ。
これは幸運なのか? そうだ。シャリアさんはどちらかというと胸元は寂しかったはずだ。俺のおっぱいスカウターによれば、シャリアさんは78のA。エリザは88のE。イチゴは100のHである。アンダーのサイズまでは予想不能だが、カップサイズも大方正解ではなかろうか。
そうだ。本来の体形であれば、こんな格好で二人で馬に乗ったとしても彼女の胸が俺の背に触れる事は無いと思う。しかし、今はあの巨乳のイチゴに変化しているのだ。
俺は彼女の豊満な胸の柔らかさを存分に堪能しつつ、彼女とイチャイチャする妄想に耽った。抱き合ってキスしたり、胸に触ったり揉んでみたり、乳首をつまんでみたり、興奮状態になりながら脳内でそのような映像を再生し続けた。これはイケナイ事だと思う。こんな淫猥な妄想でシャリアさんと……いや、イチゴとイチャイチャするなど失礼千万ではないか……などと俺の理性は訴えているのだが、煩悩まみれの俺はそれを止めることができなかった。
「休憩にしよう。壮太が疲れているようだ」
ちょうど数本の木立のある場所だ。小川のすぐ傍であり、向こう岸には小麦の様な作物が一面に揺らめいている美しい田園風景が広がっていた。
「そうね。ちょっと休憩しましょう」
ザーフィルは膝を折ってしゃがんでくれた。俺がぎこちなく背から降りたのだが、彼に耳元でそっと呟かれた。
「そこの木陰で抜いて来い。恥ずかしい奴め」
流石は神馬だ。そういえば人の心が読めるという話だった。俺の下半身の事はとうにバレていたという訳だ……。
俺は赤面しながら木の陰で立ちションを済ませ、素数を数えながら息子が収まるのを待った。自分で自分に「恥ずかしい奴」と言い聞かせながら。
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