第23話 襲撃者は誰ですか?

「何の音ですか?」

「ヤバイかも。壮太。残りをちゃっちゃと食べちゃって」


 表が騒がしい。本当に打ち壊しでもやっているかのようだ。しかし、こんな騒がしい時に食べろとか、どういう事?


「壮太君。逃げなければいけないかもしれないからね。お腹を満たしておく事も大事なの。とにかくそれを食べなさい」


 シャリアさんにも言われた。残り二口くらい残っていたサンドイッチを口に放り込み、あまりかまずに飲み込んだ。


 しかし、逃げるってどういうこと?

 そんな非情事態になってるの?


 シャリアさんが何やら魔法の杖のようなもの、先っちょに青くて小さな宝石がはめ込んである杖を振った。そこから淡い光が広がり、ぼんやりと輝く屋敷の模型のようなものが出て来た。


 いや、それは模型じゃなくて、実際のこの建物を魔法で映し出している。結構広い敷地は塀で囲まれていて、俺には校庭の無い学校のように見える。中央に体育館のような大きな建物、その周囲に細長い建物が何棟かあった。


 正面の門に鎧を着た兵士が集まっており、固く閉じられた門を丸太で突いてこじ開けようとしていた。しかし、その門は何かの魔法がかかっているのか、青い光に包まれていて破れそうにない。


「これは……」

「シャリア様の魔法。鳥の視線を投影するの」

「鳥の?」

「多分、鷹のイスハークが上空を旋回してる。ね、シャリア様」

「鷹ですか?」

「そう。シャリア様は凄いんだから」


 確かにすごい。鷹を操ってその視覚情報を立体映像で再生しているのか。鷹を偵察ドローンのように使いこなすなんて……とんでもない魔法使いだ。


「ところで、あの連中は何なんですか? あんなにブッ叩かれても門は破られていないようですけど、魔法で防御してあるの?」

「あれは王都に巣食う傭兵部隊です。鎧や盾等の装備が統一されていない。でも、ハマン将軍の配下ですよ」

「え? 聖騎士団なんですか? 何でそんな事が分かるんですか?」

「グラスダース聖騎士団が暴虐行為を行う訳にはいかないので、傭兵を雇っているのです。中に騎士団の人間が紛れ込んで陣頭指揮をとっていますね。ほら、この男。聖騎士団のクロードです。変装していますが、私にはわかります」

「そうなんだ。それで、アイツらの目的は何なんですか? イチゴ姫の強奪とか?」

「そうでしょうね」

「ここは守れるんですか? 何十人も武装兵に囲まれてるし」


 俺はシャリアさんを見つめた。相当不安になっていたのだと思う。


「今は大丈夫です。ただし、聖騎士団の主要メンバーが数名参加してきた場合は、門の結界も容易に破られるでしょう」

「来るんですか?」

「聖騎士団としては来ません。私たちは、聖騎士団の医療部門を受け持っています。彼らの仲間なのですが」

「複雑なんですね」

「ええ……」


 本当に複雑な事情のようだ。シャリアさんは眉間にしわを寄せて神妙な面持ちをしている。


「あの、私から提案があります」


 恐る恐るといった感じでエリザが挙手をした。


「私がイチゴ姫に変装して、ここから抜け出すってのはどうでしょうか? 囮になって、連中を引き付けるんです」


 そんな事を言い放つエリザベスだったのだが、俺はちょっと驚いた。彼女は身長約170センチで体重57キロ。スリーサイズは上から88、58、90と言ったところ。かなりのナイスバディなのだが、全身がもふもふで黄色と黒の虎皮に覆われているのだ。それに対してイチゴはと言えば、身長は約155センチ体重は60キロ。スリーサイズは上から98、72、96と言ったところで、かなりのぽっちゃり系である。以上の数値は俺の推定であるが、誤差は5%以内だと断言していい。


「囮の案は敵を混乱させるのに役立つと思いますが、あなたを危険な目に合わせるわけにはいきません。それに、あなたがイチゴ姫に変装するのは……無理じゃないかしら。体形もお肌の色も違いすぎですし」


 そりゃそうだ。メイクで誤魔化せるレベルじゃない。しかし、彼女の勇気は褒めてもいいと思った。俺なら自分が囮になるなんて発想は絶対にないからだ。


「やっぱりダメですか?」

「ダメです。とにかくあなたを危険な目に合わせるわけにはいきません」

「でも、どうにかしたい」


 エリザの気持ちもわかる。

 外にいる傭兵はその数を増やしており、傭兵とも言えない流民のような連中も参加して来ていた。そして、門を壊そうと攻撃しているその轟音と振動は、奥にあるこの部屋にも十分に伝わっているからだ。


 エリザの目を見つめながら、シャリアさんが話しかけた。


「あなたの気持ちはよくわかります。私もこの状況をどうにかしたい。囮作戦は名案と言えば名案なので……私がイチゴ姫に変身しちゃいましょう」


 その言葉には驚いてしまった。シャリアさんは美人だけど小柄で、体形も髪の色も瞳の色も、イチゴとは似ても似つかないからだ。ちなみに、俺の体形センサーはシャリアさんの数値を素早く分析していた。


 身長は148センチ。体重は39キロ。スリーサイズは上から75、55、76であろうか。小柄で華奢な体つきだが、ウルファと比較すればこぢんまりとしているが、出ているところは出ていて女性らしさはちゃんとあるのだ。しかし、このサイズ格差は大きいと思う。


「シャリア様は変身魔法を使うのですね。私に使ってくださればいいのに」

「だから、あなたを危険な目に合わせられないの」


 エリザを諭しているシャリアさんなのだが、エリザは尚も頬を膨らませ、不満たらたらと言った風であった。


「じゃあ、ちょっと待ってて」


 シャリアさんは懐から白い紙を取り出して開く。その中から黒い髪の毛を一本つまんで、自分の唇で挟んだ。そして青い宝石が埋め込まれた魔法の杖を三度振るった。


 シャリアさんの体が青白い光に包まれ、そして華奢な体がぽんぽんと膨れ上がった。青白いショートヘアは腰まである黒髪となり、豊満でぽよんぽよんな胸元が揺れた。シャリアさんは一瞬で、イチゴそっくりに変身していたのだ。

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