第63話 休日のひとり旅
夕方。バイクで土手に降りた。
橋脚の近くに停止してスタンドをかけた。降りると今日は特に疲労しているのがわかった。
連日の長時間労働が堪えているのだろう。久しぶりの二連休だが、これなら家で寝ていたほうがましだったかもしれない。
テントを張って、そのあと川辺を眺めた。夕陽を反射する綺麗な水面だが、どうしてかため息ばかりが出る。
だんだん寒くなってきた。腰を上げてテントをくぐり、寝袋に入った。食事をする気分にはなれず、やがてあたりは暗くなった。
疲れているはずなのに、なぜか眠気がやってこない。
寝床が違うことに身体が抵抗しているのだろうか。いや、そんな事はないはずだが……。
目をつむって羊を数えた。すると遠くから、音が近づいてくるのがわかった。
「……ん?」
砂利を踏む靴音だ。
それは一つや二つではなく、無数になってザリザリと近寄ってくる。話し声が聞こえる。
「……」
息をひそめて聞き耳を立てた。
いったい誰が何の用で来たのだろう? 土手の管理者か。それとも警察か?
そしてテントは、何者かに包囲された。
なんだこの状況は、気味がわるい……。まさかここは、いわくつきの場所だろうか。できれば人であってほしい……。
見知らぬ集団がテントを調べている。うろうろしながら話し合っている。
暗くて何も見えない。不安が増したことで緊張してきた。圧迫されているような今の状況が苦痛だった。早く去ってくれと祈った。
そしてとうとう、予感していたことが起こった。何者かの手でファスナーが下ろされたのだ。
おれは恐怖を抱きつつ、相手に向かって話しかけた。
「……あの、何か?」
応えは返って来ず、こっちを覗き込む気配がした。
おれはつづけて、ここから移動したほうがいいか訊ねた。しかしこれも返答はなく、今度は寝袋のファスナーに手をかけられる。
「な、何をするんですか? やめてください!」
抵抗したが、相手はかまわず顔に触れてくる。男の手らしきものがさわさわと撫ではじめる。
「ちょっと! いい加減にしてくれ」
寝袋が左右にひらかれた。
おれは衣服をまくられ、胸に触れられてしまう。耐えきれないおぞましさに襲われる。
身をねじろうとするも、相手は触れることをやめない。
人間か。霊魂か。どちらにせよ、やはりここはいわくつきの場所だった。
おれは来たことをつよく後悔した。相手に向かい、危害を加えないよう主張した。
霊ならば、どうか祟らないでくれと訴える。はやく成仏してくれと叫ぶ。
やがて、男が声を発した。
「……おそらく亡くなっていますね。かすかに腐敗臭がします。鑑識を呼びましょう」
その声に仲間が応えた。そして無線の音声が聞こえた。
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