第62話 ガラス瓶の内側に

 

 深夜が二時も過ぎた頃、空腹を覚えたのでキッチンに向かった。

 何を食べようか考えた末、棚にオイルサーディンがあったことを思い出す。

 頭と尾っぽの先を切ったイワシの身が、オリーブオイルに浸っている食べ物だ。

 俺はその瓶をとった。電灯にかざして眺めたあと、今度は冷蔵庫からビールをとった。

 キッチンにお皿と瓶を置き、キャップを握ってグイとまわした。フタをはずすと、ふわりといい匂いが鼻に入ってくる。

 そして身を一尾、箸でつまもうとした時だった。箸先が身に触れた瞬間、イワシがぴくりと反応した。

 その動きにつられるようにして、瓶に収まっていた数尾がいっせいに暴れ出す。

「うわ!」

 思わず声をあげ、だがイワシは動くことをやめない。

 ここから出せといわんばかりに、それぞれがばらばらになって尾っぽを高速で振っている。

 瓶からオイルが跳ねて、手やキッチンが汚れた。

 やがて背骨が折れ、身がくずれ、それでも脱出しようと皆が暴れている。

 俺は混乱した挙句、キャップを締めようと慌てた。手が滑ってすぐには締められなかったが、必死になってやると閉じることができた。

 だがイワシは封印されたことで勢いを増す。

 濁ったオイルの内側で、一尾が横に倒れてくる。内臓を抜き取った穴がぱくぱくと動きだす。

 なんだか人間の言葉で責められた気がした。もう恐怖の限界がきて、瓶をゴミ箱に投げ捨てた。

 キッチンから逃げ出した俺は、ベッドに潜り込み布団をかぶって震えた。

 微かに聞こえる物音は、朝まで止むことはなかった。

 

 

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