第60話 不思議なスイッチ

 

 夕方、仕事に疲れて帰路を歩いていた。すると突然、靴先に何かが当たり、転がっていく。

 何だろうと思って近寄った。目を下に向けてみた。夕陽のさす地面に、トグルスイッチが落ちていた。分電盤に使う小さなやつだ。

「誰だ、こんなところに捨てたの。それとも落とし物かな……」

 気になったので、前かがみになって拾った。なんだかキラキラとして綺麗だった。斜光にあてると七色に光っているのがわかった。

 ふたたび帰路を歩きながら、スイッチをカチカチやった。指に伝わる感触と、小気味良い音がなんとなくハマって心地いい。

 そうして鼻歌をうたいながらのんびりと進む。

「おや?」

 ふと上空に目をやれば、飛行機雲が走っているのが見えた。わりと速いスピードでどこかに向かって飛んでいく様子。

 だが特に気にすることもなく、町の景色を見つつ歩を運んだ。スイッチを動かす指は止まらない。カチカチと鳴って楽しいからだ。

 ON。OFF。ON。OFF──。

 

 その頃。各国の国防省はてんやわんやの騒ぎとなっていた。

 長距離弾道ミサイルが次々と発射されているのである。

 格納するサイロがどんどん開き、炎と煙の尾を引いて大空高く飛んでいく。

 優秀なエンジニアが原因を解明しようとするも、まったくの不明の事態であった。システムをダウンしても射出の操作は続行されていた。

 数時間後、世界は核の被害により、ほぼ壊滅状態となるだろう……。

 数多の人間が事実に気づくことなく、消し炭となって死んでいく。

 まさかひとりの日本人男性が、原因になっていることなど知らずに──。

 

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