第59話 ポケットの中に……


 駅から出てスマホをとろうと上着のポケットに手を入れた。指に痛みがギリッと走った。

「なんだ。いったい……」

 抜いた手を見れば、指に歯型がついている。

 まさかと思い、ポケットの生地を引き出そうとした。手を入れた瞬間、より強い痛みが走った。

 ど、どういうことだ? ……いや、間違いない。俺の指が何者かに噛みつかれた。

 怖くなってあたりをうかがうも、誰もが素知らぬ顔で歩いている。

 突然、ポケットの中からくぐもった音が聞こえた。中で何かが噛み砕かれているのがわかった。

 バリッ、ボリッ、ガシャっと破砕機にかけたような気味の悪い音……。

 俺はお菓子の小袋をあけるようにして、ポケットの端をつまんだ。そおっと引いて、中をのぞいてみた。

 すると、無数のプラスチックの破片が、『ブッ!』という音とともに飛んできた。歩道のアスファルトに落ちて散乱した。

「!!」

 破片から察するに、あれは俺のスマホだ。見えない場所で砕かれて、拒絶するように吹き出された。

 いったいポケットの中で、何が起こっているというのか──。

 やがて俺は、駅のトイレの個室に入った。カギをかけたあと、上着をゆっくりと慎重に脱いだ。

 さきほどポケットの中をのぞいた時、ちらりと見えるものがあったのだ。それは赤いルージュを引いた女の唇だった。

 俺は周囲に聞き耳を立てて、トイレの中に誰も近寄って来ないことを確認した。

 そしてズボンのファスナーをつまんで、ゆっくりとおろした……。



 ~翌日の新聞記事より抜粋~

 〇月〇日未明。

 駅の個室トイレで会社員○○さん(34)が遺体となって発見された。

 死因は出血死だった。○○さんは下半身を露出したまま亡くなっていた。

 

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