ー2ー

 遊園地で会って以来、例のゲイバーに中林が顔を出すようになる。毛利と親しくなったというよりは、波那の情報を得るために利用している風だった。

「アンタ最近よく来るね」

「酒飲みに来てるだけだろ。何か文句あんのかよ?」

「それだけなら何の文句も無いけど魂胆が気に入らない。津田さんにも色々聞き回ってるらしいじゃないか」

 毛利は嫌そうな顔をしているが、中林はお構い無しで酒を飲んでいる。

「それは俺の自由だろ?」

「だったら直接聞きなよ、やり取りはしてんでしょうが」

「あぁ。最近ちょっと面白い話聞いてさ」

「何?」

 毛利は一応興味本位で訊ねてみるが、ニヒルな笑みを浮かべるだけですぐに答えようとしない。

「彼、江戸食品で働いてるんだってな」

「そう聞いてるけど」

「確か『アイツ』もだな」

「誰? 『アイツ』って」

「俺の言う『アイツ』と言えば大体想像付くだろ」

「まぁな」

 毛利はそう返事をしてから嫌な予感が頭をよぎった。

「ちょっと待った。今何考えてた?」

「『アイツ』彼みたいな人好みだったな、と思って」

 ちょっと似てんだよ……中林は何かを懐古するかのように遠くを見つめている。毛利もそれには気付いていて、確かになと相槌を打つ。

「分かってると思うけど彼ゲイじゃないよ。アンタノンケは対象外じゃなかった?」

「基本そうでも例外はあるさ。仮に『アイツ』が手ェ付けてたとして、俺がちょっかい掛けたらどんな反応すんだろうな?」

「知らないよ、そんなの。アンタはどうしたいのさ?」

「そうだな……彼とならガチで付き合っても良いと思ってる」

「なら正攻法で行きな、『アイツ』のことは度外視してさ」

「何事も刺激があった方が面白いだろ?」

「相変わらず悪趣味な……」

 毛利は肩をすくめてみせたが、完全に『アイツ』を出し抜くことを楽しんでいる中林は、不敵な笑みを浮かべて酒を引っかけていた。


 別の日、同じゲイバーにて。波那に振られた畠中にも新たな出逢いがあり、初めて見掛ける可愛らしい男の子をナンパしている。彼は普段ほぼナンパしないのだが、理想を絵に描いたようなルックスのその子に一目惚れしてしまう。

 男の子は信州出身で、自身で学費を稼いで昨年大学進学の為に上京してきたばかりだった。歳は二十二歳、現在恋人がいないので出逢いを求めに来た、と言う。

「君たち気が合うみたいだね」

 この日毛利は休みで、店内はマスター一人だけだった。

「えぇ、まぁ」

「会社の彼はもう良いのか?」

 デリカシーの無いその発言に畠中は隣にいる男の子の反応を窺うが、見たところさほど気にしていない様子だ。

 

「二度も振られりゃもう良いですよ」

「君にしては頑張ったね。あれから懲りずにアタックしたんだ?」

「アタックって、表現古いっすよ」

 畠中は四十男の言い回しに苦笑いする。

「新しいカクテル作ってやるよ。『門出』なんてどうだ? 君のも一緒に」 

「じゃ遠慮なく」

 畠中はそれを頂くことにし、隣にいる男の子に何やら耳打ちをして二人の世界を作っていた。

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