ー10ー
それから少し経ったある金曜の夜、職場最寄り駅で火災が発生したと騒ぎになる。事故なのか事件なのかは不明だが、いずれにせよ交通機関を利用している者たちにとっては大打撃な出来事である。
波那も例にもれず帰宅が困難となり、どう帰ろうか思案に暮れていた。タクシーで帰ろうと乗り場で順番を待つことにするが、タクシードライバーの田村から連絡があり、火災と交通渋滞で駅に近付けないと言った。
『いやぁ申し訳無い。渋滞にはまっちまって動けないんだ、他の奴らも似たような状況みてぇでさ』
「そうですか……わざわざご連絡ありがとうございます」
帰宅を諦めて会社に戻ろうかなぁ? そんなことを考えながらも一縷の望みを持ってそのまま並んでうちに段々と気分が悪くなってくる。
そんな波那を偶然見掛けた畠中はというと、翌日の休日出勤を考慮した上で早々に帰宅を諦めて既にホテルを押さえていた。宿は手配できたと一人気楽に夕食処を探していたのだが、再びホテルに連絡を入れてもう一人泊めて欲しいと頼むと、エキストラベッドを入れる形でならと応対してもらえることになった。
「それでお願いします」
彼は二人で泊まれるよう手配を済ませると、行列に並んでケータイをいじっている同僚を引っ張り出した。
「何やってんだ? 来もしないタクシーなんか待っててもしょうがねぇだろ?」
「そうなりそうなのでホテルを探しているのですが……」
「それならさっき手配した。どこか店に入ろう」
二人は初めて並んで歩き、少し離れた商店街にある居酒屋で食事を摂ってからホテルで体を休めることにする。
「すみません、こんなことまでして頂いて……」
「良いよ、そんなの」
波那は思わぬ親切に礼を言ったが、素っ気ない態度を取られて少々困惑してしまう。
「部屋、別々の方が良かったんじゃ……」
「何で? 一応顔見知りな訳だし、俺らみたいなのがわんさかいるんだからさ。この方が少しでも多くの人が泊まれるじゃねぇか」
「それもそうですね……」
そう返事はしたものの、昨年末の告白劇もあって多少の気まずさを感じてしまう。もしかしたらもう踏ん切りを付けているのかも……そういうことにしてあまり意識しすぎないようにする。
「風呂、先に入るぞ」
「えぇ、どうぞ……」
波那はその間に自宅に連絡を入れ、駅の火災で交通機関が麻痺していることとホテルで夜を明かすことを告げた。早苗の話によると麗未の方でも影響が出ているそうで、彼女は社内泊になると連絡があったと教えてくれた。
「何だか疲れちゃったなぁ……」
彼は寝間着に着替えるとエキストラベッドに横たわり、運良く宿泊できた安心感からかいつの間にかうたた寝をしてしまっていた。
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